優しい雨が、君の頬を伝うとき。

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 * * * 「ここ! ここが私たちのクラスの下駄箱だよ!」  とうとう、来てしまった。  やっぱり帰ろうかなと怖気づいてしまうけど、隣には早織がいる。  今更カッコ悪いことはできない……。 「優雨君の下駄箱は……あった! ここだね!」 「あ、ありがとう」  たくさんの生徒が靴を履き替えている、少し年季の入った正面玄関。  下駄箱前に置いてある黒ずんだすのこが、この学校の長い歴史を感じさせる。  僕は自分のスニーカーを下駄箱にしまってから、端の方に置いてあった来客用のスリッパを履いた。  どうやら、早織とは同じクラスのようだ。 「みんな! おはよう!」  早織が先に教室に入って、元気な声で挨拶をする。  早織の声に、先に教室に入っていたみんなが注目した。みんな早織を見るなり、笑顔で手を振って「おはよう」と返した。  後ろから僕も教室に入る。  すると、空気が一変した。 「え? 優雨? お前、今更何で来たんだよ?」 「嘘、学校辞めたんじゃなかったの? ビックリなんだけど」  同じ小学校の、同級生だ。名前は……何だっけな。  小学校の時が嫌な記憶過ぎて、頭から抹殺したから覚えてないや。  僕は適当に「お、おはよう」とだけ返して、早織の後ろにピタッとついた。 「あ、えーと……麻衣香(まいか)、優雨君の席って、ここだよね?」 「え、ええ? う、うん」  さっき「ビックリなんだけど」と言った女の子に、早織が聞いてくれる。  そうか、思い出した。この子は麻衣香だ。苗字までは覚えていないけど、早織と仲良かったからギリギリ記憶に残っている。  僕は指差された自分の席に、無言で座った。  みんなの視線が痛い。圧倒的アウェー。これがアウェーの洗礼か。  何だか胃がキリキリしてきたぞ。 「おい早織、どうして優雨なんか連れてきたんだよ。こいつがいるとどんよりするんだよ。天気も悪くなるし」  ガタイの大きい、おそらく小学校の時に僕を率先して除け者にしていた男子が、早織に詰め寄る。  すぐに麻衣香が「ちょっと、早織を責めないでよ」と庇ってあげていた。  何にもしていないのに、早速僕は悪者扱い。やっぱり来るべきではなかった。  それでも、早織はあっけらかんとした口調で、「だって、最後はみんなで卒業したいじゃん!」と胸を張って答えていた。  ガタイの大きい男子は、チッと舌打ちをしてから自分の席に戻る。
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