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「やだよ。私はイケメンしか愛せないの」
「うわぁ……。SNSに書いたら炎上しそう」
「だから万年鍵垢だよ」
「あーね。……って、あれっ? てか、アンタさ、中学生のときブッサイクな歌い手のリアコやってなかった? 未成年猥褻で捕まった奴」
「あ゛あ゛あ゛あああ~~~~!!!!!! 思い出させんなよマジで!!!!」
頭を抱えてのたうち回り(たいけど、社内なので我慢している)私を見て、花子はゲラゲラと笑った。
「つーか、花子。アンタも十年間既婚隠して不倫してた声優のこと推してたじゃん。つい数年前まで」
「あ゛あ゛あ゛あああ~~~~!!!!!!」
今度は花子が頭を抱えてのたうち回りたくなる番だ。ふふん。と笑う。私に黒歴史を思い出させた罰だ。
「今も……推しやめてないよ……」
デスクにつっぷしていた花子は顔を上げると、絞り出すように言った。
「アッハイ」
「乙女ゲーは全部売っちゃったけどね……」
「あそう」
二人向かい合って、しばし無言のまま過ごした。いろいろな弁当やらカップラーメンの混ざった匂いと、雑談している他の社員たちの声、納期が近い仕事を抱えた社員のキーボードをカタカタと鳴らす音だけが響いている。
「もうやめよう、この話は」
「そうだね」
私と花子、各々スマホに向き合った。残りの昼休みの時間はすべて、ソシャゲをやることに決めた。単純作業に没頭することは、推しを失った私の傷を癒してくれる……たぶん。
「うわっ、なにこれ」
たぶんニュースかSNSを見ている花子が驚きの声を上げた。どうせまた芸能人の不倫かなんかだろう。対して興味もないので、スルーしてソシャゲの周回作業にいそしんでいると
「ねーねーねー」
とんとんと、肩を叩いてきた。
「ねぇー、なに?」
めんどくさそうに振り返ると、
「これ見て」
「ん?」
「アンタの推し、炎上しとるやん。推し、燃ゆ。なんちゃって!」
スマホの画面をこちらに見せつけて来た。つーか何でちょっと嬉しそうなんだよ。
『春野ウララの引退発表! ファンを裏切る最低の発言』
「つーか、コイツなにしたん?」
花子はスマホを持っていない方の手で、鼻をほじりながら興味なさそうに聞いてきた。
「おい、見出ししか読んでないんかい」
「だって興味ないも~~ん」
「じゃあ聞くなや」
はぁあああ……。ため息をつく。花子は昔っから、ググる前に人に聞きに行くタイプなんだよなぁ。
「ウララくんが炎上した理由はね、クラファンをはじめたからなの」
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