ミステリー作家 高下美和の推理

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 村役場の古びた扉を押し開けた瞬間、違和感を覚えた。顔なじみの村人が揃っていたが、雰囲気がピリピリと張り詰めていた。 「何ですか? 皆さん、そんな怖い顔をして」  言い終わる前に、村人たちが無言で私を囲み、出口側を塞いだ。無言の圧力に、私は言葉を失った。 「これから、役員で村内会議を行う。それが終わるまで、申し訳ないが待合室から出ないでいただきたい」  口を開いたのは村長だった。白髪が混じった豊かな髭と、深い皺のある顔が特徴的な村の長。いつもは温和な笑顔を浮かべている人物だが、笑顔が消えていた。 「小山田村長、どういうことですか? 訳が分からないです」  この状況に納得ができず、村長に問いかけた。だが、村長は私の目を直視して、低い声でこう言った。 「理由は聞かんでくれ、嵐山さん」 「その名前ではないです。高下です。昨日、そう言いましたよね」  村長の表情が険しくなった。まるで、私の反論が罪であるかのようだ。 「岬さん! 何か言ってください。こんなの、おかしいですよ!」  私は、一群の後ろで腕を組んでいる岬に視線を向けた。彼は大柄な男で、この村に引っ越してきた私に、親切に接してくれた一人だ。  村の習慣や生活についても、多くのことを教わった。だからこそ彼なら、この異様な状況をどうにかしてくれると信じていた。しかし、岬の返答は冷たかった。 「嵐山……いや、高下さん。黙って従ってください」  岬の声は淡々としており、親切さや温かさはなかった。周囲の村人たちも同様に、硬い表情で私を取り囲んでいた。 彼らの間から、外へ繋がる扉が見えるが、囲まれたこの状況では、逃げることなど不可能だ。 「いつまで、でしょうか?」  声が震えていた。華奢な女性が男性に囲まれているのだ。恐怖を感じない方がおかしい。 「村内会議が終わるまでだと言っただろう。連れて行ってくれ」  村長の冷たい声が響いた瞬間、岬とその隣にいた男が、私の腕を無言で掴んだ。彼らの力に抗う余地はなく、私は引きずられるように階段を登っていった。  足元の板がきしむ音と共に、2階の薄暗い廊下を進み、突き当たりの一室に押し込まれた。 「騒ぐと、身のためになりません」  扉が閉まる直前、岬が私に向かって冷たく言い放った。その言葉は、一切反論を許さないものだった。  扉が閉ざされ、足音が遠ざかるのを耳にしながら、急いで扉のノブを引いた。  びくともしない。どうやら外からロックされているようだ。 「何よ……ふざけるな!」  苛立ちを扉にぶつけるように、思い切り蹴りつけた。だが、その音が廊下に響くだけで、誰も反応する者はいなかった。
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