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「高下……さんでよろしいですかな? ちなみに、高下の漢字は……」
村長はポケットからメモ帳を取り出し、漢字で『高下』と書いた。
「はい、合ってます」
よく考えれば、漢字を確認するのは不可解だ。しかし、今なら理由が分かる。
村長は、苗字に『山』が入っていないことを確認したのだ。今、思うと――村長は、いつになく険しい表情をしていた。
私はノートに仮説を書き出した。
この村は『山』を祭神にしている。山を敬うあまり、村人の名前に『山』が入る者だけが残っていったのだ。
一方、村は過疎化が進み、人を受け入れる必要がでてきた。そこで、事前に審査をして、適合する苗字の者を受け入れることにした。
仮説は確信に近かった。
香山は、山を汚しても罰はないと言った。
それは嘘だったのだ。名前を偽っていたことが、山を汚したことになったのだ。一階で話し合われているのは、そんな私の処遇。
閉鎖された村だ。もしかしたら……事故を装って消されるかもしれない。
村人が結託し、警察官までが共謀したら簡単なこと。
――やばい、殺される。
背筋に冷たい汗が流れた。
回避策は?
考えろ、考えるのよ! ミステリー作家でしょ!
いつ、村人たちが部屋にやってくるか分からない。
対策、対策、対策。彼らが納得するような解決策を考えるのよ。
――あった!
私は急いでスマートフォンのメッセージアプリを開いた。
『久しぶりに話がしたい これからのことも、相談したいです』
別れた彼へ、メッセージを送った。
よりを戻す。そして……改めて婚約をする。これが叶えば、私は『嵐山』になる。『山』が2つも入った飛び切り上等な苗字だ。
『3ヶ月、いろいろ考えた 改めて、君と話がしたい』
即座に返事が帰ってきた。私は嬉しくて、飛び上がりそうになった。
切り抜ける理由ができたからだけではない。私の中に、彼への気持ちが残っていたことに気が付いたからだ。
そのとき、ドアがノックされた。廊下側に数名の男の声が聞こえた。
判決を言い渡しに来たのだ。
『今晩、電話するね』と短いメッセージを送り、立ち上がった。
ドアが外から開けられた。村長と男が2名立っていた。私は一歩、下がって身構えた。
「一階まで起こしください」
村長が丁寧な口調で告げた。ここは、従うのが得策だ。私は村長を睨みつけながら、脇を通って階段を下った。
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