ミステリー作家 高下美和の推理

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 会議室には役員が顔を連ねていた。 「お座りください」  部屋の前、テレビ近くの席に誘導される。  私の唯一の武器は『苗字が嵐山になる可能性が高い』ことだけ。 「誰か、テレビを付けてくれんか」  椅子に腰を下ろしながら、村長が唐突に言った。  ……テレビ?  村人の誰かが、リモコンでテレビをオンした。 「おお、ちょうど、ワイドショーでやっとるわい」 『刃物を振るい、5名を刺した犯人が捕まりました』  どこかの繁華街の映像が流れていた。そして、テロップに『犯人 タカダ ミワ』と表示されていた。 「逃走中の犯人と同姓同名で、もしやと思ってしもうた。役員と相談して、部屋に入ってもらうことにした。本当に申し訳ない」  村長は、机に着くくらい低く頭を下げた。 「えっ? えーーーー!!」  状況が飲み込めない私は、素っ頓狂な声を上げてしまった。 「苗字に『山』が入っていないから、監禁されたんじゃないんですか?」  私は村長と役員たちを見渡した。皆、一様にぽかんと口を開けている。 「山が、どうかされましたかな?」  村長が首をひねった。 「これからも、村におってくださるか?」 「ええ、もちろん。あと……」 「何ですかな?」 「私、結婚するかもしれません」  思い切って口にした。 「おお、それは、めでたい!」  村人たちがざわつき始めた。 「是非、神社で式を挙げていただきたい」 「ちょっと、気が早いです。少し時間が掛かるかも」  頬の筋肉が緩んでいく。再度、付き合うことになっても、彼が村に来てくれる保証はない。遠距離が続くこともあり得る。 「さきほど、山がどうのと言われておりましたが、お聞かせいただけないですかな? ご存じの通り、この村は山との繋がりが深くて――」  村長の提案に、私は苦笑いをした。  推理は外れたが、このネタで小説が一本、書けそうな気がする。その場合、村長や村人には悪役を買ってもらう。 「お茶、どうぞ」  村長の奧さんが、暖かいお茶を持って来てくれた。 「まったく、この人、せっかちでいけません」  奧さんがそう言うと、室内が大きな笑いに包まれた。 (了)
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