山に登る

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「底なし沼は関係ねぇだろ」 「いーのー!これは俺たちだけの特別なあれ、そう、目標?ちがうな、えーと」 「……標語?」 「そう!それ!山、俺たちでさこの標語掲げてさ、一旗あげようぜ!」 「は?なに、それ」 「今俺たち4人のチームでダンス踊ってるんだ。そこに山も入ろ……そしたらきっとーー」 「僕はダンスは……」 「山のダンスはすごい!一番近くで見てた俺たちが言うんだから間違いない!ね、谷ちゃん!」 「ああ、おい山。もう逃げらんねぇぞ。腹くくれ」  2人の言葉に山田の顔が変わる。認められていた。逃げ出した自分をまた欲しいと言ってくれた。それだけで、叫びそうになるほど嬉しくなる。 「お?山、気分かわったな?やっぱり俺ら3人揃えばなんだってできるよ。あんなに死にそうな顔してた山も、見違えてるし!」 「山も案外複雑そうにみえて単純だよな。望まれたら頷いちまう。お人よしめ」 「……ふっ……ふふ、そうだね」  山田は懐かしさに泣きそうになった。でも、それは先ほどとは違う涙だった。それは己の不甲斐なさと情けなさからくるものではなくて、心を包み込むような優しさから溢れるものだ。 「柿沼くん、谷ちゃん。ありがとう」  山田の心は、もう泣いていない。霧が晴れたように澄んでいた。 「え?なに、山。なんか言った?」  2人の声に山田は首を振る。 「なんでもないよ」  そう言って笑った。2人も笑う。3人で笑い合うのはいつぶりだろう?いや、もしかしたらこんなにも心から笑うのは初めてかもしれない。  山田は2人に手を引かれ、歩き出す。もうその顔に、迷いはなかった。 *** 「山!こっちこっち!」 「うん、今いく」
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