山に登る

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 山田はいつも一歩引いて2人の後ろにいた。仲間外れとか、イジメとかそういうものはない。ただ、山田自身が思い切り楽しそうなことをする2人に気後れしているだけだった。  ーー自分は、あんな風に確実性のないものに夢中になれないから。  2人が目を輝かせて口にするダンス。このまま突き進んで、いずれそれで食べていけるような可能性があるなんて言い切れないのに。好きだからとそんな理由だけでチャレンジしてしまう。  そんな無鉄砲さが山田は信じられなかった。わざわざ不確定要素が多い未来を選ぶことに。 「なぁ!山!どーだった!?」  柿沼に不意に声をかけられて山田はハッとする。しかし、すぐに微笑みを浮かべると頷いた。 「谷ちゃんも柿沼くんもどちらもすごいかっこよかったですよ」 「そうじゃねぇんだよなぁ。山はいつもこれだよ」  山田の返事に不満なのか呆れるように谷口がぼやく。 「だな」と柿沼が同意するように頷いた。 「じゃあ、僕に何を言って欲しかったんですか?」  不満げな顔で問いかける山田に2人は顔を見合わせると言った。 「山はさ、俺らが踊ってる時、いつも一歩引いて見てるだろ?それがさ……なんか寂しいんだよ」 「そうそう!もっと一緒に盛り上がろーよ!」 「……でも、僕はダンスなんてやったことないし」  そう、山田はダンスなどした事がない。3人で一緒にいても2人を見ているだけ。昔から一緒にいたはずなのに、いつからか……自分一人だけが置いていかれたように思えて、2人に対して羨ましい気持ちや寂しさが山田の心にはあった。 「なら、一緒にやろうぜ!」 「そうだよ!3人でやればもっと楽しいよ!」 「……でも」 「大丈夫だって!俺らが教えてやるから。な?」  2人の言葉に山田は頷く。  ーーそうだ、やってみればいいんだ。3人一緒ならきっと……。
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