山に登る

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 けれど、それは違った。  やはり人生、山あり谷ありで……なかなか思うように平穏には進まない。  山田は自分自身に吐き捨てる。  “ばかじゃない”のとーー。  翌日からの学校では、柿沼と谷口はいつも通りだった。いや、いつも以上に真剣にダンスに取り組んでいた。  あんなレベルの高い者たちを目にしても腐らずに。 「なぁ、山!俺たち、次は絶対優勝しような!」 「そうだぜ。もっともっとうまくならねぇとな」  2人は山田を励ます。それでも山田の気持ちは晴れなかった。どんなに練習してもあのレベルには追いつけない。追いつけると思えなかったから。  結局、ダンスを諦めたのは山田だけだった。柿沼と谷口とは高校卒業と同時に疎遠になり、大学生活がすぎ、社会人となっても山田は二人とはあれっきり連絡をとっていない。  ただ、毎日のタスクを消化していくだけ。  平穏が一番だと、言い聞かせて。 ***  ある日の仕事帰り、山田はふと駅前がざわついているのを耳にした。酔っ払いの喧嘩が何かか?とぼんやりと人だかりの隙間から覗いてみると、そこには山田が想像したような光景はなかった。  耳に届く、アップテンポの音楽。それを刻むように体を自由自在に操って踊る4人。  ーーああ、ダンスをしてる。  山田はそう思った。自分が諦めたものが、また目の前で誰かが踊っている。  それもとても楽しそうに……。  4人は時に激しく動き回り、時に優雅に舞うようにステップを踏みながら踊る。その一挙一動があまりに綺麗で、山田は思わず見入ってしまった。 「はい!ありがとうございましたー!」  曲が終わり、4人は頭を下げると観客から拍手が送られた。そしてそのまま片付けの準備に入る。終わると同時に観客も捌けて、人だかりも消えた。
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