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観客の拍手喝采の音で、山田はハッとした。パフォーマンスが終わったようだ。早くここから立ち去ろう。また前のように見つかるわけにはいかない。もう、あの2人を見て……惨めな思いはしたくない。
山田が踵を返そうとしたその時だった。
「あれ?山じゃね?」
その声に思わず足を止める山田。人混みから顔を出したのは、谷口だ。それに釣られて柿沼もやってくる。
「……っ……たに、ちゃ……ん」
名前を呼びそうになって口を噤む山田。そんな山田に2人は表情を強張らせた。
「……ひでぇ顔してんなぁ。なんかあったんか?」
そう言って心配そうに見つめる谷口に堪えていた思いが溢れそうになり、山田は歯を食いしばり、走り出した。
「あ!おい!」
谷口の怒ったような声が聞こえたが、振り返る余裕は山田にはない。ひたすら前のように走り続ける。このまま振り切って、家に着いて、気持ちをリセットして……そうすれば、全て元通り。そう、考えて……。
けれど、それは追いついた谷口の手によって阻止された。
「待てって言ってんだろ!」
「谷ちゃん……?」
「いいから、こっち来い!」
谷口は山田の腕を掴み歩き出すと、そのまま駅前の広場にあるベンチに座らせた。そこに柿沼も加わる。2人も座ると、少し間を置いてから柿沼が口を開いた。
「……山、おまえ……ダンスやめちゃったんだな」
柿沼の言葉に山田は唇を噛み締めて俯いた。
「俺さ、小学校の頃からおまえの事ずっと凄いやつだと思ってたんだよ。真面目だし、なんか優等生だし?まあそういうのもあったけど、他にも理由はあって。だから、高校で同じクラスになって嬉しかったんだ」
「嬉しい……?」
「だってさ、絶対に俺の夢笑わなかったじゃん。山は」
柿沼は真剣な目で山田を見つめた。
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