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山田の紡ぐ言葉は止まらない。止まれない。いや、止まらせてはいけないのだ。2人の夢を壊さないためにも……自分の過ちを繰り返さないためにも……そして、これ以上惨めになりたくないから……。
「……そうかよ」
柿沼の声に山田はハッとしたように顔を上げた。呆れられた?見限られた?でも、それを望んでた。だから、これでいい。山田は眉を下げて小さく笑う。
「俺たち3人いたら、そりゃそーなるだろ。だって俺たち名前に山も谷も沼も入ってるし」
不意に柿沼がそんなことを言い出すので山田は呆気にとられる。
「な?谷ちゃんもそう思うだろ?」
「うん、確かに」
谷口も同意するものだから、山田は更に混乱する。2人は何を言っているのか。訳がわからないという山田を横に柿沼と谷口はどんどん話を進めていく。それは悪気もなにもない。高校の頃と変わらない、空気。
友人同士の何気ないやりとり。
「でも沼は関係ねぇよな?」
「ひっでー!俺だけ仲間はずれとか嫌だし。な?山」
そう明るく声をかける柿沼に山田は泣きそうになる。
「……っ……僕は……2人みたいに……」
「ん?」
「僕は、2人みたいにはなれないんだ」
2人の夢に自分もいたかった。けれど、それは叶わなかったから。だからもう……一緒にいてはいけないのだと、そう告げると柿沼が口を開いた。
「山ってさぁ、頭いいのに馬鹿だよな」
「え……?」
「だってよ、おまえも谷ちゃんも俺も3人でいる時が一番楽しかったろ?他なんて関係ないし!」
「山は真面目だからな。レベルが足りないとか、ごちゃごちゃ考えてる暇があったら動け」
「谷ちゃん辛辣ー」
2人の会話がスッと心を解いていく。懐かしい感覚に山田の心は震えた。
「人生山あり谷あり、おまけに底なし沼ときた!俺たち3人ならどんなに無謀でもいけそうな気がすんだよな」
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