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山に登る
人生、山あり谷ありとはよく言ったものだ。
なかなか思うように平穏には進まないことをよく表している。
しかも谷と違って山は、わざわざ登りたがる者たちが多い。
試練だか、挑戦だか。そんな耳障りのいい言葉をいい感じに並べて。
なぜ命がけで山登りをしようというのだろうか。思わず、言いたくなることがある。
「ばかじゃないの」と。
「なぁ、なぁ!今さ、新しい振り付け練習してんだよねー!みてよ!」
放課後の教室。高校2年生の山田という男子がぼんやりとスマホを眺めていると彼の友人である柿沼がそう切り出した。既に立ち上がって勝手に踊り始めている。それを見て、山田の前の席でもう一人の友人である谷口が「おお〜」と感嘆の声を上げた。
「やるじゃねぇか」
「でしょー?結構イカしてるとおもうんだよね」
「だがよ、もうちょっと力技が欲しいな」
「あれでいーの!俺のはクールなロックダンスなの。筋肉系ダンサーは黙っててくださーい」
「あー、おまえ俺より全然筋肉ないもんなー。すまねぇな、できねぇことアドバイスしちまって」
「かっちーん。俺だって?パワー技できるし?」
「じゃあ勝負するか?」
「望むところだしいい!」
突如教室内で始まるダンスバトル。
高校生、特に青春真っ盛りの男子というのは、どうしてこうも愚かなのか? 思春期特有の万能感とでも言おうか。とにかくその「自分ならやれる!」的な謎の自信に満ちあふれている時期だ。とんでもないことをしでかす事が多い。
とくにこの2人の友人はそうだった。山田は呆れつつ苦笑いで、踊る二人を眺める。
「えい、どうだ!」
「お、ならこうだ!」
「やるじゃーん!」
「おまえも、な!」
山田の目に映る2人の姿は実に楽しそうで、互いにステップを踏みつつ持ち技を繰り出している。
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