不規則なSOS

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 この話には起承転結で言うところの結がない。つまるところオチがないのだ。それは聞き手にとってみればなんとも収まりが悪い終わりになってしまうに違いない。しかしながら僕はあの時起こった僕自身に出来事を誰かに話さない訳にはいかないのだ。今後僕の発信するかもしれないSOSを聞き逃してしまわれない為にも。  僕はその日もいつものように市民プールの25mレーンを一人で泳いでいた。身体の全体を大きく使って筋肉をしっかりと伸ばすようなイメージでゆっくりと泳ぎ、同じレーンで自分より早く泳いでいる人がいたら端に寄ってその相手に道を譲る。あくまでも自分のペースで自分が定めた目標まで泳ぎ切ることに集中する。これを毎週火曜、木曜、土曜に行う。それが僕がこの30年間で身につけることができた習慣だった。  目標の距離を泳ぎ終えたあと、プールサイドに置かれたベンチに向かうとこれもいつものように富田くんが座っていた。彼はこの時間にいつも僕と同じようにこのプールに泳ぎに来る大学生だ。清潔感のあるさっぱりとしたスポーツカットに引き締まった身体、加えて人当たりのいい性格は好青年という言葉が一番ふさわしいように思える。  僕たちはいつものようにベンチに座って世間話を始めた。大学のゼミやサークルに活発に参加している彼はいつも様々な新しい意見や感想を楽しそうに僕に話してくれる。しかし今日彼は最近起こった不思議な出来事について僕に話し始めた。それは彼が所属している登山のサークルで起こった出来事だった。
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