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「その時ぼくたちは部室で無線機のチェックをしていたんです。そうしたら部員の一人が『どうしてもSOSにしか聞こえないFMが入るんだけど』と言ってきました。何人かで集まってもう一度聞いてみると、不規則ではあるけれど確かに長点と短点を連続でクリックする音が聞こえます。ぼくたちはそこで誰かが発信しているSOS信号だと判断しました。アンテナを振るとそれは県境にある山で、信号強度はかなり高かったです。ぼくたちは急いで顧問に取り次ぎ車を出して貰うことにしました」
「警察には連絡したの?」と僕は訊いてみた。
「いや、確信ではなかったので現場に着いてからの報告にしようという顧問の判断でした」彼はそう言って一呼吸置いた。「二時間ほどかけて特定できたのは天神平という場所です。現地に到着すると夕方ということもあってか人はほとんど誰もいない状況でした。小型の無線機を持ちもう一度方向を確かめてから三組に分かれて移動すると、隣を歩いていた部員の無線機が突然ハウリングを起こしました。これは普段ではあまり起こらない現象です」
僕は息をのんで彼の話の続きを待った。プールの中では小学生くらいの女の子と指導員の女性がクロールの泳ぎ方を教えていた。女の子は懸命に腕をかいて前に進んでいた。
「それから登山道に入ってすぐの場所にザックを発見しました。さらに少し見回した後に女性の死体を見つけました。詳しくは見ていないけれど比較的に若い方だったと思います。ぼくたちは慌てて警察に連絡して到着するのを待ちました」
「……そういった形で登山客の遺体なんかを見つけるのは珍しいことだろうね」と僕は言った。
彼は頷いてから、でも不思議なのはここからなんです、と唇を舐めながら言う。
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