最後に勝つために必要なものは

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 歩美と真彩であるが、ライバル同士。元々は同じ高校の競技かるた部に所属していたのだが、真彩の方が父親の仕事の都合で遠くの県の高校に転校。 お互いを繋ぐものは競技かるた。二人は「いつか近江勧学館で会おう」と誓いを立てて別れるに至る。 そして、お互いに競技かるたの腕を上げた結果全国大会決勝にて再会することが出来たのであった。  二人は実力伯仲。畳の上で()が舞い踊る度に両陣、(いず)れかの札も舞い踊る。 両陣、もう残りの札は少なくも同じ枚数。札の並べ方も同じで、まるで鏡写し。  二人が緊張に包まれる中、詠み手が天敵とも言える詠を詠み上げる。 〈きみがため……〉 詠み手が「きみがため」の五文字を詠んだ瞬間に二人の間に緊張が走った。 この札は「大山札」と呼ばれる六字決まりの詠。六文字目までを詠まれないと取札がわからないのである。 今回の場合は上の句の五文字までが「きみがため」の詠が二句あり、六文字目の「は」と「を(お)を詠み上げて判断をしていて取り合いになっては反射神経の勝負になってしまう。  つまり「遅い」ということになる。札の取り合いは命の取り合い。このような鉄火場では悠長に六文字目を読むまで待ってはいられない。 歩美は勝負をかけた。「きみがため」の三文字目の「が」が詠み上げられた時点で突き手を放ち敵陣に置かれていた「わがころもでに ゆきはふりつつ」の札に突き手を放ちガッシリと掴んだのである。
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