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そして、局面は進み…… お互いの陣にそれぞれ札は一枚のみ。歩美はリードしていたにもかかわらずに運命戦にまで追い込まれて余計に焦りを覚えるのみ。緊張で全身が震え上がる。
真彩はリードされていたにもかかわらずに運命戦に持ち込むことが出来て気分は高揚。焦りは微塵もない。
運命戦とは残った札が二枚になる状態のことを言う。つまり、自陣に一枚、敵陣に一枚の状態となることである。
それぞれ、残った二枚の札は……
「あさぼらけ ありあけのつきと みるまでに よしののさとに ふれるしらゆき」
「あさぼらけ うぢのかはぎり たえだえに あらはれわたる せぜのあじろぎ」
一番残ってほしくない大山札二枚が両陣それぞれにある状態。
しかも、空札は「あ」から始まる詠がいくつか残っている。お手つき一つでゲームオーバーなこの状態では「あ」の一文字目の発声で手を動かすようなギャンブルはとても出来ない。
二人の間に緊張が走る。
歩美の陣には
「あさぼらけ ありあけのつきと みるまでに よしののさとに ふれるしらゆき」
真彩の陣には
「あさぼらけ うぢのかはぎり たえだえに あらはれわたる せぜのあじろぎ」
二人は挙手をし、札の位置を自分の真正面に置き直す。自分の陣地にある札に少しでも早く手を伸ばすのが運命戦に勝つためのセオリーである。
自陣の札が先に詠まれたら勝ち。
敵陣の札が先に詠まれたら負け。
お互い、自分の札が先に詠まれることに運命を委ねるから運命戦と言う。
全く…… よく考えたものだ。二人に限らず、競技かるたに於いて運命戦に持ち込まれた場合は皆が皆、思うことである。
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