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パーキングエリアでの再会
遅くもらった盆休みを利用して、僕は田舎の墓参りに出かけた。僕しか墓を見るものはおらず、夏は草むらを鎌で切り拓きながら墓に向かう。毎年の恒例行事だ。溜まっていた年次休暇をこの辺りで使うことにしているけど、今年は……。
高速のパーキングエリアで一休みしよう。
朝食抜きだったので、たこ焼きを買って食べた後、飲み物を買おうと自販機が建ち並ぶ場所に行った。何にしようかな、自販機って限定販売のヤツとかがたまにあったりするんだよな……と思いながら選んでいた。
すると派手な音をさせて足元に小銭が散らばった。
「すみません!」
と女性が謝る。
「大丈夫ですか」
転がっていく小銭を僕も拾った。
「はい、こっちにも落ちてましたよ」
「すみません、拾って頂いて」
その女性は礼を言って僕の顔を見た。
「あ、え、うそ……」
「え……?」
「田坂の、健ちゃん?」
「わ! もしかして夏帆か!!」
高校の同級生の夏帆だった。
「健ちゃん!元気にしとった?」
「もちろんだ、夏帆は?」
「私も元気! 久しぶりだねえ!」
夏帆に会うのはいつ以来だろうか。大学生になってからの高校の同窓会以来だ。もう十数年が経つ。
夏帆はサイダー、僕はスポーツドリンクを買い、店の外にあるベンチで飲みながら話した。
「今からどこいくの?」
「俺は墓参り。一年ぶりに帰るよ。夏帆は?」
「あ……私も墓参りの帰り」
夏帆は少し寂しそうに俯いた。
「あれ、夏帆ん家の墓、地元にあるんじゃ……」
とそこまで言って、しまった、と思った。左手の薬指に華奢なプラチナの指輪が光っていたからだ。
「あーそうか、嫁さんは忙しいな」
と慌てて訂正して、ふと周りを見た。
「お前、旦那さんとか家族待たせてるんじゃないのか?」
夏帆は静かにかぶりを振った。
夏帆は高校生の時は二つ結びをしていたが、大人になった今、肩につかないくらいの緩くパーマのかかったボブヘアをしていた。彼女の横顔は少し疲れていて、きっと俺もまた少し疲れた顔をしていた。大人になるとはそういうことだ。
サイダーを一口飲むと夏帆は微笑みながら言った。
「えっと、旦那さんの墓参りなんだ」
「えっ?」
僕はマジマジと夏帆の顔を見た。夏帆はサイダーの泡のように爽やかな笑顔で、僕に言い直した。
「だから、旦那さんの、墓参り。もう三年経つんだ」
僕はあっけに取られて何も言えない。三十代半ばで未亡人になったというのか。スポーツドリンクを喉に流し込んでみたけれど、次の言葉が出ない。
だって僕は彼女の夫を知っているどころか、夏帆が結婚していたことすら今知ったのだ。たまたま偶然再会した高校の同級生風情が、配偶者を亡くした相手に何を言えるだろう。僕は一言絞り出すのが精一杯だった。
「そうか、大変だったな……」
大型トラックが動き出し、鏡面のボディが太陽の光を反射した。しばらく僕らは無言でベンチに座りペットボトルから飲み物を飲んだ。
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