パーキングエリアでの再会

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「健ちゃん、お墓参りは一人なんでしょ」 「なんで知ってるんだよ」 「お母さんが言ってた。田坂さんちの息子がお盆に一人で来てるって」  小さな村が集まって町になったような田舎だ。噂話は早いし、誰かと話したらそれは近所の人が知る事実となる。 「ああ、速谷のじいさんが話したんだな」  二人で笑った。 「私も今暇だしさ、健ちゃんの墓参り手伝うよ。どうせ鎌持って草刈りしながらでしょ?」  サイダーを飲み干した夏帆は、立ち上がって伸びをした。その伸びの仕方は、高校の教室で見たことのある懐かしいものだった。 「暑いし虫来るぞ」 「当たり前よー。私の方が地元は長く住んどるんだから。さあ、帰ろ」  夏帆はスマホを取り出した。 「連絡先交換しよ。今から帰ってすぐ行くの?」 「あー、墓参りは明日かな」 「じゃあさ、クラスの子達に声かけてみるよ。今夜飲みいこ? 重ちゃんと真由が夫婦で居酒屋開いたんだ」  僕は面食らった。一人で行って誰にも会わずに帰るつもりだった。僕は町を出てもう二十年近いから。  それから僕らは別々に車に乗り込み、田舎町に向かった。一時間半ほど運転してインターを降り、僕は誰もいない実家に向かった。父も母も他界し、遠い親戚も遠方だ。ここに来て実家と墓を管理するのは僕の仕事になっていた。嫌でたまらなかった田舎の墓守なんて皮肉だ。  玄関を開けると空気が澱んでいる。窓と雨戸を開け、風を通す。掃除機をかけ、持ってきた布団を干した。実家に残っている布団はとても使えたものではない。 「健、帰って来たかぁ!」  隣の速谷のじいさんが顔を出した。僕の父よりも年上だが父と仲が良く、父は速谷先輩と慕っていた人だ。一年に一度しか帰らない僕にもこうして声を掛けてくれる。 「はい、今さっき着きました」 「ほれ、これ」 「いつもありがとうございます。あの、おばちゃんと食べてください」 「またこんな気を使いおって。いつもすまんのう」  毎年墓参りの労いだとビールの6缶パックと西瓜を貰う。だから僕も速谷のじいさんとその家族に何か買っていくことにしていた。 「松野さんちの夏帆ちゃん、出戻ったんですね」 「あー、旦那が死んじまって、去年かぁ、秋頃戻って来よった。大変よのう、早うに旦那を亡くして……」  そうか、夏帆はこの町に戻ってまだ一年経っていないのか。全く興味の無かった同級生達にも、時が経ちそれぞれ色々あるのだろう。そして夏帆が言った夫の墓参りは、本当のことで、近所の皆は知っている話だということも。  速谷のじいさんが帰り、スマホを取り出すと、夏帆からLINEが来ていた。 「健ちゃん、18時から開始するよ!参加者は多分5人位かな?私17時40分頃迎えに行くからよろしく!」 という文章の次に、メガネを掛けたウサギが笑っているスタンプが送られていた。  僕は何故か断る気持ちは失せていた。誰にも会わずに帰っていた毎年の墓参りなのに。 「了解、よろしく」 と短く返信した。  ある案件が頭の中をよぎった。明後日それはやってくる。まあ、飲みに行って、墓参りしてからでも遅くない。判断するにはまだ早計だ。  僕は仏壇を簡単に掃除し、遺影の父と母、祖父母に手を合わせると、明日の為に墓参りの準備を始めた。夜はきっと酔っ払って準備なんか出来ないから。それにしても暑くてやりきれない。行くまでにはアルコールも抜けているだろう。ビールをひと缶だけ開けた。
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