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「おはよー!」 『おはよー!』  私の声についてくるようにこだまの声が遅れて青空に響き渡った。  今朝の空はどこまでも均一な水色で、まるで作り物のような美しさになんだか腹が立つ。  いや、私がイライラしている原因は明らかだった。昨日のショックがまだ抜けきっていないのだ。  身体の中で渦巻く、このもやもやした感情を吹き飛ばしたい。  私は胸いっぱいに息を吸う。 「フラれたー!」 『やったー!!』 「ふざけんなあー!!」  私の怒号が果てしなく綺麗な青空に響いた。あまりに声が恐ろしかったのか、こだまはだんまりだ。  むー、と口の中で不満を噛みつつ私は制服に着替える。  フラれた彼のいる学校に行くのはすごく気まずいが、授業にはちゃんと出なければいけない。授業なしでもテストで満点取れるような天才に生まれたかった。 「もう受験生かあ」  新品の赤色のリボンをシャツの襟に結ぶ。リボンの色が変わっただけなのになんだか緊張してしまう。  うちの高校は学年によってリボンの色がちがう。一年生は緑、二年生はピンク、三年生は赤。花が開いていく様子を表しているらしい。  私もちゃんと咲かなきゃな。 「ん?」  ベッドの枕元に置いていたスマホから着信音が鳴った。画面には母親の名前が表示されている。  進級のお祝いか、約束のリマインドか。両方かもしれない。  なんにせよタイミングが悪い。フラれたばかりでダメージを負っている上に、今日は三年生はじめての登校日だ。  私の頭は今フラれた彼と同じクラスになっていませんようにという願いでいっぱいなのだ。余裕がない。  鳴り響くスマホをそのままに、私は一階の台所に向かう。朝食を食べ終えて二階に戻ったときにはスマホは黒い板に戻っていた。  大丈夫だよ、と真っ黒な画面に呟く。 「今日もしっかりお勉強しますので」  スマホを拾い上げて、カバンを肩にかける。  家を出る前に私はもう一度だけ窓を開けた。 「いってきまーす!」 『いってらっしゃーい!!』
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