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『おはよー!』
「まだなにも言ってないのに!」
『みすったー!!』
「おはよー!」
『おはよー!』
フライング気味のこだまの声を聞いてから私は窓を閉めた。
毎日少しずつ外に見える山は赤や黄に色を変えてきている。このままくたびれてきた私のリボンの色に近付いていくのだろう。山々はいつも時間の経過をありありと見せつけてくる。
「あ、今日土曜日か」
スマホのアラームを止めたとき、画面の端っこに日付が見えてふと気付く。最近毎日学校に通っているので曜日感覚がなくなっていた。
今日は学校の自習室に行って受験勉強だ。家より学校のほうが集中できるタイプなのだ。
着替えを完了したタイミングでスマホが鳴った。
来るだろうな、とは思っていた。
『あ、もしもし真矢?』
「おはよ、お母さん」
『おはよう。元気してた?』
「うん。それなりに」
よかった、と電話口から母の声が聞こえる。
それを聞いて私は心を少し固くした。ここまでは定型、ここからもどうせいつも通りの流れだろう。
『で、調子はどう?』
「そっちもまあ、それなりに」
『そっちはそれなりじゃだめでしょ』
ぴしゃりと冷水を浴びせられたかのように頭のてっぺんから冷たいものが落ちてきた。
わかってる。そう伝えようとしたが、今はまだ伝わらない気もした。
「……がんばってるよ」
「ならいいけど。約束忘れてないよね?」
「うん、ちゃんと憶えてる」
約束。母の電話で毎度聞く言葉だ。
そんなに何度も言わなくてもわかってるけど信用されていないんだろう。無理もない。
自分でも自分を信じられていないんだから。
「八馬玉大学に入れたら、この家は私がもらえるんでしょ」
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