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「あーもーできないー!」 「あらあら」  庭をころころと転がっていくバレーボールを目で追いかけながら地団駄を踏む私を見ておばあちゃんは微笑んだ。  今だから、というわけじゃない。おばあちゃんは私を見るときいつも薄く笑っていた。思い出すおばあちゃんはその表情ばかりだ。 「どうやったらホイップレシーブできるんだろ」 「ホイップレシーブってなんだい」 「私の必殺技!」  中学校に入学して入ったバレー部で私はリベロを任されていた。  元々そのポジションをやりたかったので希望が叶った形だ。リベロは職人というイメージで渋いし、ユニフォームの色が一人だけ違うのもポイント高い。  せっかく希望通りのポジションにつけたのだから必殺技のひとつも必要だろう。  それがホイップレシーブだった。ホイップクリームみたいにふんわりした返球をするレシーブだ。  けれどこれがなかなかうまくいかない。何度挑戦してもボールはあちこち飛んでいくし、腕も真っ赤になって痛い。  もう何日も練習しているのに成長の兆しすら見えなかった。 「でも難しくてさ。ほんとにできるのかなあ」 「どうだろうねえ。まーちゃんにしかわからないんじゃない?」 「うーん、やっぱり私には」 「あ、いいこと思いついた」  言うことのきかないボールを拾いあげた私の呟きをおばあちゃんの声が遮った。  普段おばあちゃんは私の話を切ったりしないので少し驚く。おばあちゃんのほうを見ると、表情はいつもどおり穏やかだった。
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