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「まーちゃん、おばあちゃんがなんでもできるようになるおまじないを教えてあげようか」 「そんな裏技知ってるの?」 「おばあちゃんはなんでも知ってるよ。まーちゃん、言霊ってわかるかい?」 「ことだま?」 「そう、言葉には不思議な力があってね。口で言ったことがぜんぶ本当になるの。だから前向きなことだけ口にしたほうがいいんだよ」 「なにそれすごい」  すごいとも思ったが、嘘くさいとも思った。  言うだけでなんでもできるようになったら苦労はない。 「そうでしょう。でもそれだけじゃ弱いから、神様の力も借りるの」 「神様?」 「そう。まーちゃん、あのへんに向かって叫んでみなさいな。私ならできる、って」  おばあちゃんは広い空を指差した。  空の下には青い山々が連なり、小さな町が広がっている。  私はボールをおばあちゃんに渡して、輪っかにした両手を口に当てて叫ぶ。 「私ならできるー!!」  私の声に遅れて、できる、と輪郭のぼやけた声が返ってくる。いくつもいくつも広い空から声が降ってくるみたいだ。 「こだま、って言ってね。まーちゃんの言葉に山の神様が返事してくれてるんだよ」  おばあちゃんのほうを向くと、ボールを両手で持ったままやっぱり微笑んでいた。 「神様ができるって言ってるんだから、できるよ」  やってごらん、とおばあちゃんはボールを高く放った。  青い空に黄色いボールが太陽みたいに浮かんで、落ちてくる。  私は落下地点まで駆けた。両足を広げて重心を落とし、両手を祈るように組む。  赤く色づいた両腕にぶつかって再び空へと帰ったボールは、空中で止まっているように見えた。 「……できたー!!」 「いえーい」  しわくちゃの手でピースしておばあちゃんは笑った。  いつもより深くしわを刻むその笑顔を、私は今でも鮮明に思い出せる。
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