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耳元でスマホのアラームが鳴った。
アラームを止めて布団から這い出る。足の裏にひやりと床の冷たさが伝わった。
洗面所でうがいをする。鏡を見ると、目の下には薄くクマができている。
昨夜はしばらく眠れなかった。緊張か、不安か。そのどちらもかもしれない。
今日はついに大学入学共通テスト本番だ。
ここでどのくらいの点数を稼げるかで、志望大学への合格判定が大きく変わってくる。正念場というやつだ。
高校三年間しっかり勉強してきたし、ここ一年はほとんど毎日受験対策に費やした。模試の成績だって悪くない。やれるだけのことはやったつもりだ。
それでも不安は拭いきれなかった。
もしもここでミスをして点数を落としてしまったら、八馬玉大学なんて夢のまた夢だ。
「いい天気」
部屋に戻って、窓の外を眺めた。
幾本の水滴が垂れるガラスの向こうには青空が広がっていて、連なる山々はそろいもそろって白い被り物をしている。
遠くに背の高い建物がいくつも見える。毎日見ているはずなのに、今日はいつもよりずっと遠くに見えた。
ここが一番いいんだよ、と微笑んでいたおばあちゃんの大好きな景色。
この場所を失ってしまうかもしれない。もう二度とこの景色を見られなくなってしまうかもしれない。そう考えるだけで不安に押し潰されそうになる。
──本当に大丈夫?
発していないはずの声が頭の中に反響する。暗闇で何度も繰り返す問いに答えてくれる人はいない。
こんなときおばあちゃんならなんて言ってくれるだろう。
大丈夫だよ、と言ってくれる気がしたけど、そうじゃないかもしれないと思い直す。
どうだろうねえ、と穏やかな声が耳の奥で蘇る。
まーちゃんにしかわからないんじゃない?
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