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「やっほー!」
『やっほー!』
窓を開けて叫ぶと、遅れて声が返ってくる。
おばあちゃんはこれを『やまびこ』や『こだま』と呼んでいた。遠くの山に声が跳ね返ってくるとか、山の神様が返事をしてくれてるとか、いろんな説があるらしい。
「うーん、いい天気」
両腕を上げて伸びをした。窓の外に延々と続く青空は高く澄み渡っている。
私の家は山の高いところにある。
二階の部屋の窓からは見渡す限り山々が連なっており、山と山の間のぽっかりと空いたスペースに町がある。私の住む町だ。
毎朝ここから空と山と町を眺めるのが日課だった。
「おはよー!」
『おはよー!』
挨拶をすれば挨拶が返ってくる。こだま。もしくは、やまびこ。
私は断然こだま派だ。こだまのほうが響きがかわいい。
ただうちのこだまは他とは少し違う気がする。
「今日の私はー!?」
『かわいいー!!』
ときおり私の言葉とは違う言葉が返ってくるのだ。
しかもなんとなくテンションが上がっている気がする。
「今日は英語の小テストー!」
『がんばれー!!』
「数学は自習ー!」
『さいこー!!』
「体育はバレー!」
『リベロー!!』
「なんで私のポジション知ってんの」
私の疑問はこだまには届かなかったらしく返事はなかった。いや返事すること自体おかしいんだけど。
こだまの変化に気付いたのは私が高校生になってからだ。
小さい頃からこの家にはよく遊びに来ていたが、その頃は普通のこだまだったと思う。
もしかして、と私は息を吸った。
「好きな人できたー!」
『やだー!!』
「やだって」
間違いない。
返ってきた言葉を聞いて私は確信する。
このこだま、ぜったい私のこと好きだ。
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