1

1/1
前へ
/9ページ
次へ

1

「やっほー!」 『やっほー!』  窓を開けて叫ぶと、遅れて声が返ってくる。  おばあちゃんはこれを『やまびこ』や『こだま』と呼んでいた。遠くの山に声が跳ね返ってくるとか、山の神様が返事をしてくれてるとか、いろんな説があるらしい。 「うーん、いい天気」  両腕を上げて伸びをした。窓の外に延々と続く青空は高く澄み渡っている。  私の家は山の高いところにある。  二階の部屋の窓からは見渡す限り山々が連なっており、山と山の間のぽっかりと空いたスペースに町がある。私の住む町だ。  毎朝ここから空と山と町を眺めるのが日課だった。 「おはよー!」 『おはよー!』  挨拶をすれば挨拶が返ってくる。こだま。もしくは、やまびこ。  私は断然こだま派だ。こだまのほうが響きがかわいい。  ただうちのこだまは他とは少し違う気がする。 「今日の私はー!?」 『かわいいー!!』  ときおり私の言葉とは違う言葉が返ってくるのだ。  しかもなんとなくテンションが上がっている気がする。   「今日は英語の小テストー!」 『がんばれー!!』 「数学は自習ー!」 『さいこー!!』 「体育はバレー!」 『リベロー!!』 「なんで私のポジション知ってんの」  私の疑問はこだまには届かなかったらしく返事はなかった。いや返事すること自体おかしいんだけど。  こだまの変化に気付いたのは私が高校生になってからだ。  小さい頃からこの家にはよく遊びに来ていたが、その頃は普通のこだまだったと思う。  もしかして、と私は息を吸った。 「好きな人できたー!」 『やだー!!』 「やだって」  間違いない。  返ってきた言葉を聞いて私は確信する。  このこだま、ぜったい私のこと好きだ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加