落ちぶれボム

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 ボムは、いつもの様に街道を通りかかった、商品が入っているのだろう大きな籠を背負っている行商人と思しき男の前に立ちはだかった。脅しの為に、短剣をちらつかせる。 「死にたくなければ、金目の物を置いて行きな!」  行商人は、怯えた目でボムを見、息を呑んだ。 「ボ、ボム?!」 「えっ?!」  行商人は、幼馴染のナムだった。 「お前、ナム?!」  ボムは、顔を真っ赤にした。内心馬鹿にしていた男に、一番見られたくない姿を見られた。その恥ずかしさで死にそうだった。  ナムは、ボムの気持ちを察したのか、次の言葉が出て来なかった。  暫くして、ナムが言った。 「元気そうでよかった」    ボムは、無言で目を逸らした。  ナムが言う。 「皆、ボムがどうしてるか、心配してたんだよ」 「何のことだか。俺は、ボムなんて名前じゃない」 「そう、か……」    ボムは思った。  襲う時、あの、ひ弱なナムだと分からなかった。  ――行商が出来るほどにナムは身体つきが逞しくなっている。それに引きかえ、俺は……。 「ねえ、ボ……傭兵さん。よかったら、一緒に来てくれませんか」 「え?」  ナムの言葉に、ボムは思わず振り向く。  ナムは、微笑む。 「一人旅は、やっぱりちょっと物騒なんですよ。用心棒を雇おうかなと思っていた所なんです」 「あんた……。俺なんかで良いのかよ……」 「貴方がいいと、私は思います」  ボムはうっすらと涙ぐんだが、意地でもこぼすまいと奥歯を噛み締めた。  お前なんか、と突っぱねたい気持ちもあった。  けれど、どういう訳か、そうできなかった。 「俺は……高いぜ」  やっと出て来たのは虚勢を張る言葉だった。ボムは自分を無様と思ったが、ここでナムを拒絶したら、自分は本当のクズになり下がる。そう思った。  昔馴染みを見て望郷の念を刺激されたとでも言うのだろうか。自分はずいぶんと弱く小さな男だった。そう認めるしかなかった。  ナムは、ほっとしたように笑みをこぼした。  自分は人より弱く生まれた。それは辛かったけれど、そのお蔭で人の痛みが少しは分かるようになれたのかも知れない。そう思った。 「少しはまけて下さい。代わりに一食付けますから」  ナムが言った。 「まあ、それで手を打ってやるか」  ボムは肩を張った。 「ありがとうございます」  ナムは、そう言うと、籠の中に手を突っ込み、拳ほどの大きさの朱い果実のひとつをボムに差し出した。 「どうぞ。昼食です」 「なんだよ、これっぽっちかよ」 「贅沢言わないで下さい。あまりゆっくりもしてられないので、今日はこれで我慢して下さい」 「しょうがねえな」 「じゃあ、行きましょうか」  ナムは、当たり前の様に果実に(かじ)りつきながら歩き出した。  ボムが、ならってその後を付いて行く。果実に齧りつき、予想外の味に目を剝き、顔を歪めた。 「すっぺえ!」  思わず文句が出た。 「こんなん売れるのかよ!」 「うるさいですよ。すっぱい果実を必要な人だっているんです!」 「まじかよ」 「さっさと歩いてください。置いていきますよ」 「なんだお前、えらそうによぉ」  ナムは、ふんっと鼻を鳴らす。 「雇い主ですから!」 「ぐっ」  ボムは苦虫を噛み潰したような顔をした。  ふたりの道中は、まだ続く。  
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