起動兵士ランダム

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 いったい何のために、こんなものに税金を使わなくちゃならない。そう疑問に思う金の流れが市役所や県庁にはある。  俺の所属する銅(あかがね)市役所には、防災設備として、巨大ロボットが密かに管理されているのだ。  しかし、税金で開発した以上は倉庫で眠らせておくわけにはいかない。  助役が「あのう知事、さすがに、いつ役に立つかもわからない、そんな整備費がかかるものを倉庫に眠らせるというのはいかがなものかと」  そう進言したのだが、知事の決心は変わらなかった。これには裏があり、文部科学省で開発したものの、使い道がないロボット研究の成果のモデルとして、わが銅市が選ばれたのだ。なんのことはない、政府の失政の尻拭いをさせられたわけだ。本来なら自衛隊か警察で請け負えばいいのだが、そんな合体技なんて、彼らにしても必要としなかった。考えてみれば装甲車や戦車が集まっても、戦力が削れるだけ意味がない。実際の戦争では数こそ力だし、デカいロボットなど動きが鈍いだけで、戦闘機の的になるだけだ。  黒鉄知事は「常は市バス、パトカー、消防車、選挙の宣伝カーとして活用して、いざ有事となれば合体して巨大ロボットとして……」と、言うのを助役は慌てて止めた。  「そ、そんな選挙の宣伝カーなんか、市の財政で出したら、それこそマスコミに騒がれて、百条委員会に呼ばれてしまいますよ!」  「むっ! そうだった、それなら、ごみ回収車とか給水車で、どうかね?」  「ダメです、有事の時に絶対に必要な車両がロボットなんかになったら、それこそ噴飯ものです。パトカーや消防車も同じですよ」  「うーむ、なら市バスだけで合体させればいいだろう、どうせ、運転手不足で本数が減ってるんだから、少々、減っても市民に影響でないだろう」  「いけません、市民の足です! だいたいバスだけ集めて合体させたら、とんでもない大きさになります」  「いいじゃないか、大きいことはいいことだ。目立つし、市の救援活動のアピールにもなる」  「電信柱を忘れてはいけません。電線や光ケーブルに引っかかりながら動くことになってしまう」  「なら、市で使ってる軽自動車、スクーター、電動キックボードなんかが集まって合体すれば、そんなに規模はデカくならんだろう。だいたい、これらの部品工場はウチの重要な産業じゃないか、宣伝にもなるだろうが」  「はあ、でもちゃちでは?」  「ちゃちだと? 君がそうしろと言ったようなもんじゃないか! なんだ、ああでもない、こうでもないと言って!」  とうとう、知事は怒りだし、「すぐ人選を行い、パイロットを決めるんだ」と、命じたが、助役は苦しい知事の胸の内を察して、このように提案した。  「いかがでしょう? 書類処理の問題で、先送りしては? そうやってずるずると開発を引き延ばしにして、次の政権まで待ってみては? 新しい総理は合体ロボなどに、きっと興味を持たないはずです。あんなバカバカしい」  そういうと、知事は大きく溜息をついた。  「そうだな、次の総選挙は来年だ。今の総理が失脚すれば計画はふりだしになる」  「そうですよ、そうしましょう」  このように夢の合体ロボは夢のまま終わることになるところだったが、そんなことを総理が許さなかった。  大阪の万博の出し物にすることを勝手に決めてしまったのだ。  マスコミに情報をリークされ、とうとう知事は追い詰められ、我々、市役所に勤務する役人で適当に集められたチームが結成された。  その名もチーム《ランダム》。  これは恥ずかしい。恥ずかしいうえに無意味だ。  警察の鼓笛隊のテーマソングに合わせて、軽自動車とスクーターなんかが集まって、ロボットに変形するんだ。いきなり左遷されて、宣伝部に回されて、これだ。  自慢じゃないが、俺なんか高校時代、機能を競うロボット甲子園に出場経験があるというだけで、赤いスーツに身を包んでヒーローショーをやれと命じられたんだ。  元々の職場である市民生活安全課の上司から、「いいじゃないか中村君、栄転だよ、なんせ係長として部署に異動するんだからね……。君は《アカガネ・レッド》だ。リーダーだよ」  「そんな役者を雇えばいいじゃないですか!」  と、さすがに抗議したら、「ダメだよ予算がないんだ。民間に任せると、金が余計にかかる。おまけに変形するんだからね、労災がきく君らでないと危なっかしくて合体マシーンなんか使えない」というミラクルな返事が返ってきた。  「危険なんですか!」  すると、「いや、いや、手順通りなら、倒れたりしない設計だから安心しなさい! あくまで万が一の話だから……。君らは変形する軽自動車の中で、じっとして、《レッツゴゥー! ジョイント!》とか、それらしいセルフを大声で叫んでくれたらいいんだから」  これを聞いて俺は、こう思った。  (地獄じゃないか。嫁さんが泣くぞ!)  さすがに「せめて顔を隠すマスクを支給してください!」と、頼むと、上司は「ああ、市長に頼んどくよ、申請書を作成しなさい。しかし、勇気がないね。ちょっと恥ずかしいくらい辛抱できないのかね? 福井県では、もっと悲惨だぞ」と、面倒くさそうに答えた。  「どう悲惨なんですか?」と、訊いたら、「あっちではスクーターや電動キックボードが集まるんじゃなく、恐竜の着ぐるみを着て合体するそうだ。なんでも中身がパワードスーツになっているんだそうだ。福井は恐竜が観光資源だから本気度が違うねえ、見習いたまえ」と、叱るじゃないか、これを聞いて、俺は(やっぱり、おっさんはダメだ)と、つくづく思った。  俺の家では幼稚園の子供がいるからわかる。軽自動車やスクーターが合体するより、恐竜ロボットが合体して人型になった方が圧倒的に子供にウケがいいし、市のアピールになるじゃないか。それに《ランダム》は予算ばかりを考えて、ただベニヤ板に合板を貼った盾と塩化ビニール製のパイプで作った銃を持つだけなのだ。                     了
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