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「どうした、マモル、大丈夫が? わっ」  うしろから、お父さんの声がした。  怪物はいまにもぼくに飛びかかってこようとしているように見えた。  そのとき――。  ダーン!  と、耳をつんざくような破裂音(はれつおん)が、すぐそばで聞こえた。  怪物のひたいに、一発、穴があくのか見えた。  怪物はぼくに飛びかかってこようとする動きを止めた。  ぼくは息をのんで、やつの様子を見ていた。  怪物はそのまま、天井を(あお)ぎ見るようにして、うしろに倒れていった。  その動きが、スローモーションのように、ぼくには見えた。 「マモル、大丈夫か? 怪我(けが)はないか?」  お父さんに肩をゆすられた。  ぼくはようやくのことで息をついて、ふり返った。  お父さんが、二本の腕で猟銃(りょうじゅう)をかまえていた。残る二本の腕で、ぼくの肩をゆすっている。ふたつの頭のうち、ひとつは猟銃のねらいを定めるのに使い、残るひとつが、ぼくに問いかけをしていた。四本の脚は、しっかりと床を踏みしめている。 「う……うん、大丈夫だよ」  なんとか、答える。  それからぼくは、もう一度、怪物のほうを見た。  怪物は、床に仰向(あおむ)けに倒れて、動かない。 「あいつ、死んだの?」 「わからん。まだ生きているかもしれん。油断するな。近づくんじゃないぞ。いま、お母さんに、役場に連絡してもらうからな」 「うん」  ぼくはおとなしく言うことをきくことにした。  そもそも、あんなに(みにく)い化け物に近寄りたいとは思わなかった。  二本しかない腕。二本しかない脚。頭だって、ひとつしかない。ぼくたちの半分しかないんだぜ。  それに、あの肌はなんだ。怪物は服を着ているけど、(そしてその服はぼくたちをマネしようというのか、黒い毛皮の服だったけど、)服からはみ出した肌は、白くてツルリとしている。本当に(みにく)い姿だ。  ぼくは「怪物」を見ながら、もう一度身震(みぶる)いしたのだった。                              〈了〉
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