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「怪物警報」のサイレンが鳴った。
短い音が三回、長い音が三回。そんなサイレンがくり返される。
ぼくたち家族は夕食を終え、リビングでくつろいでいるところだった。
お母さんが婦人雑誌から目を上げ、ため息をつく。
「また怪物ぅ? 先週も出たばかりじゃない」
お父さんがお母さんをなだめにかかる。
「しかたないじゃないか。もうじき冬になるからね。今年は特に、山に食べ物が少ないらしいから」
「だからわたし、こんなところに家建てるの、反対したのよ」
「しようがないだろ。おれの収入じゃ、このあたりが、せいいっぱいだったんだから」
お父さんがちょっといらだつ。
お母さんのごきげんも、なおらないままだ。
(また始まった)
両親の不機嫌な様子を見て、ぼくもまた、ため息をついた。
ぼくたちの家は、山のふもとの、住宅団地のなかに建っている。
本当は、町の近くの、もっと便利な場所に家を建てられたらよかったんだ。でも、お父さんの給料は、そんなによくないから、土地代が安い、こんなところに住むことになったというわけ。
でも、こういう山のそばだと、ときおり、山に住む怪物が、住宅地におりてくることがある。
そのたびに、さっきみたいに、役場がサイレンと放送で知らせてくれるんだ。
そのサイレンが鳴りおわり、放送が始まった。
「ヤマシロの、ひがいが、かくにん、されました。じゅうみんの、みなさま、じゅうぶんに、ちゅういして、ください」
聞きとりにくい、間のびした声で、放送が続く。
「ヤマシロ」というのが、怪物の正式な呼び名だ。でも、みんな、「怪物」と呼んでいて、それで通じる。
やつらは、もともとは、山のふもとの森の中に住んでいたそうだ。
それが、住宅を建てるために、森が切り開かれたものだから、やつらは山奥へと追いやられることになった。
でも、山奥には、かつての森ほどには食料がないものだから、こうしてときどき、昔の住みかへとおりてくる、というわけだ。
そうそう思い出した。この「怪物」については、「宇宙人じゃないか」という説があるんだ。
ぼくが愛読している「ミュー」という雑誌には、こう書かれている。
――太古の昔、宇宙人が、この星におりたった。彼らは、最初のうちは、高度な文明を持っていたが、しだいに退化していき、森で原始的な生活をするようになった。
この説が正しいかどうかはわからないけど、これを信じているひとも多い。
「おおっと」
と、おとうさんがひざをたたいた。「こうしてる場合じゃないな。怪物が来るかもしれないんだから」
お父さんは立ち上がると、ぼくたちに号令をかけた。
「ともかく、まずは武器になりそうなものを、集めておこう。マモル、お前も持ってこい」
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