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【黒き山】
ここは、近隣で「黒き魔の山」などと呼ばれる山に、最も近い村である。
昔、山の神の巫女が住んでいたというその村の、村長宅に僕は逗留中であった。
「…以来、白き山は黒き山に様変わりしてしまったというわけでして。」
幼い頃から、神や精霊の声を聞き、呪を解くなどといった力を持っていた僕は、迷うこともなく、その力を生かす仕事に就く道を選んだ。
そして、この村や周辺の言い伝えなどの調査をおこない、近年発生している不作や疫病の原因が黒き山にあるのなら、問題を解決されたし…これが現在の僕が受けた依頼なのであった。
大仕事である。
「…という言い伝えなのですよ。ひどい話でしょう…!?」
すっかり憤慨した中年女性の話を聞いてうなづきつつ、僕はさらに、僕にしか聞こえないふたつの声に耳を傾ける。
聞こえる、ずっと。
互いを想いあう、会いたいと願う、ふたつの声。
「聞いてるだけで切なくなって、どうにかなってしまいそうだなあ…。」
「何かおっしゃいましたか?」
「いや、独り言だよ。」
待っていておふたりさん、きっと力になるよ、僕が。
決意を新たにした彼の探索の物語は、始まったばかりである。
(終)
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