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【環と白き神2】
「ところで、おまえ、俺への嫁入り時期は来年の春だったな。」
幼い頃に山で迷子になったところを救われた際、巫女だけでなく許嫁としての立場も与えられた環であった。
「はい、その予定で…。」
「今日中に嫁に来い。」
「はい…え!?」
いつもの冗談に何か気のきいた言葉を返そうとしたところで、白き神の表情に陰りがあることに環は気づいた。
「今日かどうかはともかく、できるだけ早く禁域内に居を移せ。」
「なぜ、そんなに急に。」
「最近、近隣の人間たちの動きが不穏だからとしか言えないな…禁域への侵入がずいぶんと増えた。」
環も、はっと表情を曇らせる。
禁域の中には、御座所があるのだ。
「そういえば私も、住まう村と近隣に立入禁止の徹底を伝えて回ったところでした…禁域への。」
「気づいていたか、まあそういったわけだ、念のため急いでくれ。」
「承知しました。」
環の不安を和らげるためか、白き神は少しだけおどけた口調でつけ加えた。
「嫌がっていた精霊変化についても、うっかり承知してくれてかまわないんだぞ?」
「嫌なわけではありません…!あなたに禁呪を使わせるわけにはいかないという一心で…!」
「わかったわかった、その話はまたおいおいな。」
人の子のままでは、その寿命は短い。
それを永らえさせる方法として精霊を生み出す行為は禁じられており、神といえども禁をやぶれば、罰を受けるのだ。
少女には、それは受け入れがたいことであった。
「では、これからすぐにでも村に戻り、準備をすすめてまいります。」
白き神は、少女をやさしく、だがいつもより強く抱きしめて、言った。
「一刻も早く帰ってきてくれ…頼む。」
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