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【環と白き神1】
青い空と暖かい陽の光。
鳴きかわす鳥や獣たちの声。
遠くで聞こえる滝の音。
吹き渡るやさしい風。
澄んだ空気の匂い。
近隣で「白き神の山」などと呼ばれるこの山には、今日も心地よい気が流れている…。
山頂の開けた場所に立った少女・環(たまき)は、黒髪を揺らしながら大きく伸びをして、全身でそれらを感じとった。
さあ、心を込めて勤めの祈りをと、深く息を吸い込んだところで、背後から声をかけられる。
「やはりここか、タマ。おまえ、ちゃんと寝たのか。」
「おはようございます、シロ。おかげさまでぐっすりと。」
環が振り返ると、白い狼の耳と尻尾を生やした青年が腕組みをして立っていた。
この山や近隣の山々を統べる白き神・白銀(しろがね)である。
「俺が目覚めた時に巫女のおまえがいないとは何事だ。俺より少しばかり早起きだからって、先に一人でウロウロするなよ。」
「少し…!?」
そう言い返して、環は深くため息をついた。
「あなたのお目覚めの時間がわかっていれば、私だって御座所で待ちます…!でも、あなたときたら…!」
白き神は傷ついた表情をつくりつつ、こちらもため息をついてみせた。
「言うようになったものだ、幼い頃のおまえは、俺への感謝の気持ちであふれていたのになあ…。」
「それではまるで、今の私に感謝の気持ちがまったくないみたいじゃないですか…!」
二人の間で繰り広げられるこんなやりとりを、遠くから精霊や動物たちがこっそり笑いながら見守る。
環がこの山で勤めを果たす日の、それが日常だった。
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