山の帝王

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「今日の正午から、ドッキリ企画の収録入ります。サトウさん心構えよろしくです」 「また黄金スペシャル?」 「ですね」 「それじゃあ、今日の正午からの収録のあの番組、ええと」 「足ツボ万歳」 「そう、足ツボ万歳。それはもちろん」 「偽番組です」 「わかりました了解です」 時間をかけるから良いというものでもない。僕とマネージャーの打ち合わせはいつだって短時間で終わるし、内容もいたってシンプルそのものだ。 「では、そういうことで」 「そういうことで」 打ち合わせ終了。 視線を落とし、スマホの画面を睨む。 エゴサーチ、ってやつ。 ――サトウ見飽きた―― ――サトウおもろない―― ――たまには本気で笑かしてくれ―― 自分で自分の名前を検索してもただ気分が滅入るだけだ。わかっているのに、それでもやめられない。芸能人の悲しい習性ってやつ。 くうっ、と唸り、スマホの画面にあふれる罵詈雑言を消し去った。 僕は面白い。僕は面白い。僕は面白い。 数秒かけて、気持ちを切り替える。 それにしても。 「またドッキリかあ。黄金スペシャル。もうそろそろあの番組卒業させてくれ。誰か助けてくれ」 独り言しながら、頭髪をバリボリとかきむしった。
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