山の帝王

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足ツボ整体師を自称する白衣の男が新人アイドル猫柳ひとみの足を揉んでいる。それを眺めながら、淡々とした口調で僕は司会進行して行く。 「ああん、そこだめえ」 猫柳ひとみが身悶えしている。身体をくねくね動かすたびにTシャツの胸の辺りに聳えるふたつの山がふるふる揺れる。 僕は目のやり場に困った。 「ここ、何のツボだかわかります?」 「ああん、わかんなあい」 「生殖器のツボなんです」 足ツボ整体師と猫柳ひとみを一列に並べてひっぱたきたくなるのを必死に堪えながら、僕は収録を淡々と進めてゆく。あくまでも無難に、淡々と。 今度は僕が足ツボを押される番だ。 施術台に寝そべり、ジーパンの裾を捲り上げて、整体師に両足を差し出した。 「では始めます」 「うーむ」 最初に足の真ん中辺りをグイグイ押されたのだが、これが案外と気持ちいい。猫柳ひとみの大袈裟な反応もまた、あれはあれであながち嘘とばかりも言えないのかも知れない。 あまりに気持ちがよすぎて、意識が薄れて遠くなってゆく。 「このゾーンはですね、不眠によく効くんですよ」 「いやあ、効きますねえ、先生」 「でしょう」 僕の記憶に残っているのは、どうやらここまでだった。 暗闇の中で、僕は長い長い夢を見ていたような気がする。目覚めたとき、僕はまるで見知らぬ場所にいた。 屋外だ。それも深い森の中に僕はたったひとり、Tシャツとジーパンという着の身着のままといった姿で放置されていたのだ。 ここがいったいどこなのか、それがまるでわからない。僕にわかるのは、ここが人気がまるでない山間部の森林ということ、ただそれだけだ。 条件反射的に手を伸ばし、ジーパンのポケットを探った。スマホがない。財布もなかった。戦慄しかけたが、冷静になって思い出す。そうなのだ。これはドッキリなのだ。ならばどこかに撮影カメラと音声マイクが設置してあるはずだ。スケジュール表によれば、明日の正午までがドッキリタイムのはず。腕時計に視線を走らせた。現在の時刻は十六時。あと二十時間だ。たった二十時間。たかが二十時間。いや二十時間は実際とてつもなく長い時間なのだが、これぐらい、仕事と思えば特にどうということもない。耐えてみせる。
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