8人が本棚に入れています
本棚に追加
「ここは私の山だ。私の山を土足で踏み荒らすのは断じて許さん。これでも喰らえ」
山の帝王は背中に隠し持っていた猟銃を構え、躊躇なく発砲した。
轟音が木々を揺らしながら雷鳴のように轟き、遥か遠くにまで木霊した。
どう考えても、あれは撮影用の小道具ではない。実銃だ。殺傷力を持った実銃が実弾を撃ち出した。そうとしか思えない。
本来なら、山の帝王ともっと時間をかけて何か面白いやり取りでもすべきなのだろう。しかし僕の動物的な生存本能がそれを許さなかった。
山の帝王に背を向け、脱兎のごとく走り出していた。
走れ、走れ、これはマジでヤバいぞ。
ドッキリの撮影で殺傷力のある実銃を使うなどあり得ない。だがあれはどう見ても実銃だ。僕にはわかる。芸人になる前、僕は自衛隊に約二年間在籍していたことがある。もちろん自衛官だからライフル射撃の訓練を受けたし、実弾が空を裂く唸り音も経験上知っている。さっきのあれは実銃が撃ち出した実弾だ。絶対に間違いがない。
背後、再び銃声。
足下に着弾し、パッと土煙が舞った。
「うわあ」
情けない声だが、腰が抜けていないだけまだましだろう。僕が元自衛官でなければ、あれが実銃かどうかもわからぬうちに、今頃はとっくに射殺されて三途の川を渡っていたところだ。
「逃げても無駄だ」
猟銃を撃ちまくりながら、山の帝王が後を追ってくる。悪夢のような時間。
視界が開けた場所を逃げ回るのは、あまりにも危険が過ぎる。
ライフル銃の有効射程は長い。射手にもよるが、ライフルにとっての百メートルや二百メートルは至近距離にも等しい。有効射程がせいぜい三十メートル程度に過ぎない拳銃などとは比べ物にならぬぐらいに長いのだ。これ以上見晴らしのよい場所を逃げ惑っていても無意味だ。狙い撃ちされてしまうのは時間の問題だ。僕は方向転換して、繁みの中に飛び込んだ。
耳元を衝撃波が襲った。僕のすぐ間近を弾道が掠めたのだ。
ちくしょう!
何なんだいったい。
僕がいったいテシガワラに何をした?
テシガワラは僕に何の恨みがある?
最初のコメントを投稿しよう!