せれくと

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 自分の好きな物。  一生(いっしょう)をかけてでも、達成したい目標を持てること。  これらに出会うのは、実は天文学的な確率であり、幸運な部類だと思う。  好きなものを見つけて、集めて、囲まれる。  ぼくは、なんて、とても幸福な景色だろうと想像する。  けれど、収集する対象が生き物だった場合、難易度(なんいど)は一気に()ね上がる。  資金・環境・食料・性格・相性・そして寿命。  生きているのだから、課題や問題が発生するのは当たり前だ。  起こりうる可能性を想像するだけで、ぼくのはパンクしそうになる。  だけど、その問題を乗り越えて、様々な困難に立ち向かって、ぼくの友人は夢に向かい突き進んでいるんだ。  かっこいいな。と。  素直に、ぼくはそう思う。  友人は保護という名目で、とある生物を収集しているのだが、その中でも、ついに目当ての生物を保護できたと喜び、ぼくを自宅に呼び出した。  (つがい)だと紹介されたソレは、ケージの中で身を寄せ合い、(おび)えた瞳で友人とぼくの顔を交互に見る。 「よく保護できたな。凶暴で大変だっただろう」  ぼくの言葉に、友人はしたり顔で言う。 「それが調べてみたら、平和主義で穏やかな気質ゆえに、同種族に(しいた)げられて絶滅危惧種になった、レア中のレアだったのさ」 「へぇ。品種は?」  ぼくは、その種族について、あまり詳しくないけど、さらさらとした黒い毛と濡れた瞳には、心惹かれるものがあった。    あ、目が合った。  かわいいなぁ。 「太陽系第三惑星・地球産の日本人さ。これからどんどん集めて、たくさん繁殖させて牧場を作るぞ」  夢を語る友人に、ぼくは拍手を送った。  牧場が成功した(あかつき)には、ぼくにも一匹くれないかなぁと、そんなことを考えた。 【了】 ea73a98b-8f8d-40de-9c6f-99e725cacc87  
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加