路傍のやまい

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「チッ」  そのうえ舌打ちまでされる。 「すみません」  また自動プログラムが発動する。したを向いてよろけながら車内を歩く。朝の十一時の都内の電車は空いていた。端の席を選びシートにもたれてガタゴト揺られる。 「はあ……」  いつから、こんなことになってしまったんだろう。答えのない疑問が頭をよぎる。子どものころは、これでも活発ないたずらっ子だったんだ。それがいつのまにか、自信の持てないうらぶれた大人になってしまった。  このまま帰宅しても、実家で同居している年老いた母を悲しませることになる。大学卒業後の就職に失敗し、そのままずるずると派遣やアルバイトを転々として、結婚もせずにこの年齢になってしまった。氷河期世代という簡単な言葉で片づけられることは不本意だが、その言葉の持つ決して甘くない響きに逃げるよりほかに救いはなかった。ガタゴトと規則正しいようで不規則なリズムを刻みながら電車が走る。気がつけば、降りる駅をかなりすぎてしまっている。 「そういえば……」  ふと子どものころに住んでいた父の家がある田舎町を思い出した。電車でここから三時間程度の場所だ。そこには山があって、自然があって、そこでぐうぜん出会った男の子とよく遊んだ。約束するわけでもないのに、いつもそばにいてくれた同じくらいの年ごろの男の子。住んでいる場所も知らない、学校も違う友達。あのころの自分は本当に社交的だったと思う。たしか名前はユウシといった。苗字は知らない。  彼とはよく泥団子を作っていたずらをしていたな。最初は(ほこら)にお供えするための泥団子だったが、いつのまにかなかに石やゴミを入れるようになり、それを投げっこする遊びに変わった。そしていたずらは加速して、おたがいの大切なものや宝物のおもちゃなんかを隠し「どの泥団子に宝物が入っているか」なんていう中身あてのゲームをするようになった。勝てば、その宝物が手に入る。負ければ、宝物は相手に没収されてしまう。そういえば、あのとき大切な御守りのなかに入っていた緑の石を隠した泥団子を当てることができず、ユウシに取られてしまったんだよな。あのときは、御守りをくれた母に中身の石をあげてしまったことを話すこともできずに空っぽになった御守りのガワだけを持って帰ったんだっけ。
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