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「先輩、事件です!」
捜査一係に星奈心美の声が響いた。
「溺死した河童でも見つかったか?」
片隅でネットニュースを見ていた沢井寛が顔を顰めながら応えると、係内にいる他の刑事達が笑う。
この綾名警察署は、のどかな地方都市を管轄としている。大きな事件が起こるのは稀だ。
「ふざけないでください!」
頬を膨らませながら睨みつけてくる心美。彼女は数ヶ月前に刑事になったばかりということもあり、毎日張り切って事件の種を探している。
小さな警察署で所属する警察官も多くはない。刑事課の捜査員が市民相談窓口に座ることもある。心美は率先してそれを行い、相談事を大げさに捉えて事件に結びつけがちだ。
「この間は誘拐事件発生だと騒いだよな? 中学生の娘の帰りが遅くなって過度な心配をした母親に乗せられて。結局彼氏と遊んでただけだったし……」
「それはそれで良かったじゃないですか。何事も最悪の事態を想定することで、犯罪の芽を摘んでいく必要があると思います」
大真面目に応える心美に、溜息をつく沢井。
最も新米である彼女と、そのひとつ先輩となる沢井は、面倒な仕事を押しつけられがちで必然的に組むことが多い。
「とにかく一緒に来てください。相談者を待たせているんです」
沢井の腕をとり引っ張り上げるようにする心美。仕方なく立つと、彼女の大きな瞳が真っ直ぐに向けられる。
可愛い……。
思わず胸が高鳴ってしまい、慌てて首を振った。
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