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詳しく話を聞くために個室に移動してもらったというので、そこへ向かう。
「どんな話だ?」
「お帰り屋さんに呼び戻してもらった霊が、自分は殺されたから復讐に行く、と言って姿をくらましたそうです」
はぁ?
呆れて立ち止まり、頭を抱える沢井。
「どうしました?」
「霊媒師を紹介してやれよ。さもなきゃ病院か?」
「真面目に聞いてください」
「聞けるか、そんな話っ!」
この地方の都市伝説である『お帰り屋さん』のことは知っていた。亡くなった人の魂を一度だけこの世に呼び戻してくれるという。
相手の霊が現れ「ただいま」と言い、それにこちらが「お帰り」と応えることで成立するらしい。
「オカルトにつきあっているヒマはないんだよ」
戻ろうとする沢井の腕を、心美が強く掴む。
「私は重大事件が隠されていると感じました。信じてもらえませんか?」
潤んだ瞳で見つめられると、胸が疼く。
「聞くだけ聞いてみるけど……」
「わーい」と嬉しそうに一声あげて進む心美に、沢井は力なく続く。
個室には若い男が座っていた。
「松岡さんです。で、恋人の……」
「い、いえ……」心美の紹介に申し訳なさそうに口を挟む松岡。「友人です。告白はできなくて……」
どっちでもいいんだけど、と思いながら先を促す。
織野聡美という女性が、数日前に失踪したという。実家にも戻っておらず、家族から捜索願が出されていた。
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