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実は聡美は「ストーカーにつけまわされているかもしれない」と不安がっていたそうだ。
更に先日、松岡は、彼女が蒼白となった顔で何かを訴えかけてくる夢を見たという。
すでにストーカーに……?
そう考えた彼は、お帰り屋さんを頼ることにした――。
「なんで都市伝説にすがろうとするかなぁ……?」
やれやれ、と溜息混じりに言う沢井。
「だって、それだけじゃ警察は動いてくれないだろうし、探偵を雇うお金もないし……」
「お帰り屋さんは無償なの?」
「あたりまえじゃないですか、神様の使いなんですから」
応えたのは心美だった。
「神様の使い? 悪魔か死神じゃないのか……って存在するならの話だが」
沢井が肩を竦める。憮然とする心美。
「存在したんです。僕も半信半疑でしたけど」
お帰り屋さんに会うためには「お帰りと言わせてください」と和紙に書き記し、この地の山間部から海へと続く綾名川に流すらしい。松岡がそうすると、翌日夜に『お帰り屋さん』は現れたという。
黒い法衣のような物を身に纏い、頭巾をしていたため顔は見えない。声は脳内に響いてきてしかも中性的だったので、年齢も性別もわからなかったそうだ。
儀式は松岡の部屋で行われた。真っ暗にして、いいと言われるまで目をつぶる。お帰り屋さんが呪文か祝詞のようなものを唱え、しばらくすると……。
「ただいま……」
聡美の声が聞こえた。目を開けて良いという言葉に従うと、そこには彼女がいた。
「お帰り」と震える声で応える松岡。こうやって現れたとすると、やはり彼女はすでに死んでいるのだ。それを確かめ原因を訊こうとするが、その前に聡美は恐ろしい形相で叫び始めた。
「私、殺されたの、あいつに。拉致されて、挙げ句の果てに……」
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