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 「あいつって、誰?」  問いかける松岡の言葉は、聡美には届かなかった。かなりの怒りを残して死んだようだ。  「くそうっ! 復讐してやるっ!」  聡美の霊はそう叫びながら部屋を飛び出し、闇に消えていった。  さすがにその状況に、お帰り屋さんも驚いた。  復讐を止めないと大変なことになる。信じて貰えるかわからないが、とりあえず警察に相談してみなさい――。  そう言って、お帰り屋さんは姿を消した。それが昨夜のことだ。  「いや、あの、ね……?」  どう応えて良いかわからず困惑する沢井。信じられるような話ではない。  松岡の顔は真剣そのものだが、思い込みか、夢か、病んでしまって見た幻か、いずれにしろ、これを元に殺人としての捜査など、できるはずもない。  「わかりました」と心美が胸を張る。「私と沢井先輩で、調べてみます」  「おい!」  勝手に決めるなと沢井が言う前に、松岡が深く頭を下げる。  「ありがとうございます。よろしくお願いします」  その必死さに、言葉を失う沢井。  「なんで調べるなんて言ったんだよ?」  松岡を帰した後、沢井が心美を問い詰める。  「だって、一人の女性が失踪したことは事実じゃないですか。殺されているなら、大事件ですよ?」  「信じるつもりか、あんな、お帰り屋さんなんて」  「私はずっとこの地域に住んでいて子供の頃からよく聞いていたので、もしかしたらって思います。捜査を始めるきっかけとしては別にいいじゃないですか! 本当に殺人で、私達が犯人を突き止めたら、大手柄ですよ?」  目を輝かせる心美。新人刑事として配属されてから大した事件がないので、張り切っているのか?  しかたないなぁ……。  沢井は溜息をつくことしかできなかった。
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