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 「ただいま……」  突然、そう言いながら聡美が現れた。暗く淀んだ表情。虚ろな瞳からは(せい)の光が感じられない。  いや、聡美は……?  「な、なんで? だって……」  北原友也は驚き、ソファからずり落ちそうになる。  「ただいま、って言ってるよ? どうするの?」  消え入りそうな聡美の声だが、胸を震わせるほど響いてくる。  「お、おまえ、死んだはずじゃあ?」  脅えながら立ち上がり、後じさる。  そう、この手で首を絞め、最後は念のためナイフで胸を刺した。白目を剥き血まみれになった姿が目に浮かぶ。  それなのに……。  「ねえ、ただいま。ただいま、だってば……」  ゆらゆらと青白い顔を揺らし、更に迫り来る聡美。  「う、うわぁぁっ!」  北原は部屋を飛び出し、玄関へ走る。必死にドアを開け外へ出て行った。  「……だめじゃん、お帰りって言わなきゃ」  呟きながら、聡美の姿は消えていった。
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