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新たな作戦が始まった。
月面、裏側。
地球からは直接見ることができない位置を限定戦場として、俺たちは奴らの戦闘艇に潜入、各個撃破に行く。
作戦に使うシャトルはありふれたものだ。航路が違うだけで。
それでも奴は発進基地の場所を告げられた時、珍しく動揺していた。
「幼馴染みが近くの観測所に勤務してる」
「覗いたのかよ」
「彼女についてだけだ」
俺達の補助脳をサポートするメインシステムは奇妙に親切なところがあった。
電脳のバックアップを取るのは普通だが、それを使う意思に関しては俺達の意思に任せたり。こんな風に誰かの所在を教えてくれたり。
会いたいのか、と俺は訊ねた。否、と奴は答えた。
「会ったところでもう俺とは分からないだろうよ」
「それはそうだが」
「それに彼女には夫が居る。二人して官吏になっているんだ。まずいことくらいわかるだろ?ミハイル」
俺はそれを聞いて思わず口笛に似たものを鳴らした。
「それはまた!なんて上等な部類!」
「だから基礎学校でも試験以外で彼女と競えることなんてできなかったさ。生まれが違う」
「は。育ちでも変わるさ。俺だって親が離婚しなかったら官吏の道を進めただろうさ」
母方に引き取られた俺は、父方へ行った双子の妹のように裕福な生活はできなくなった。
悔いはない。俺は父親を嫌っていた。母親が好きだった。
安定した職につけた訳でもなかったが、そこで腹の子の父親と出会えた。楽しかった。
爆撃さえなければ!
俺は生き返された時、敵への復讐を誓った。
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