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生き残るというのは身体の何処まで残されていればいいのだろう?
俺は腰から下を無差別爆撃で義体に置き換えられた時、名前と過去を捨ててこの界隈で生きていくことにした。
いや、それ以外の道はなかった。俺はドナーカードに献体の意思を示していたから。
かつては誰かを生かす臓器の為のものだったが、今では装甲兵のベースにするのが普通だ。
蘇生前の命と共に失ったそこには俺の子供が居た。種をくれた相手はその時に文字通り消滅していた。
多少残っていた生身も、駆け出しの頃の戦闘で失われ、奴と出会った頃は既に上半身も大半失われ、代替物になっていた。
奴は元々は汚染戦域で準看護兵をしていたという。当人は正兵になりたかったらしい。仕送りの額が大きくなるから、と。
この時代には珍しい子沢山の家庭に生まれたのだと。
弟妹は出来がいいからきちんとした教育を受けて官吏になれば安心だ、と。
「安心な職なんてあるのか?」
訊ねるとぼそっとこう答えた。
「それでも試験は平等だ」
「そうか?」
「幼馴染と競うこともできた」
「お前の初恋なのかい?」
やや茶化して言ったら押し黙ってしまった。正直な奴だった。
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