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6
足りないものは、セックスだったの?
彼の愛撫は技巧的でないと、初めての私にも分かった。初体験なのは事実だろう。でも、どうして私を相手に選んだのか。
訊きたいけれど、無理だった。
互いに余裕などなく、刺激の強さに呑まれそうになる。手と手を繋ぎ、未開の密林を探検するような、怖くて、それでも先へ先へと進みたくなるような、かつてない刺激。
呻きながら、彼を受け入れた。
こうなるまで私は失念していたが、この時のための準備を、彼は怠っていなかった。計算づくの行為か、それとも思いやりか、もう、わからない。
「……いた、い」
「千尋」
酔いは殆ど醒めていた。だけど何も考えられなくて、早く終わってほしいと、最後にはそれだけを願った。
「ごめん、千尋。だけど、どうしても」
私の濡れた頬を、哀しそうに見下ろす。痛みと苦しみに、同情して。だけど、決して止めはしない。
「どうしても、お前じゃなきゃ駄目なんだ。俺は、思い出したくて」
途切れ途切れに呼吸するのがせいいっぱい。
声なんて、出せない。
「純粋で、ただ好きでたまらない。そんな相手はお前だけで、それを思い出したかった。好きなんだ、お前が…………女の子と付き合ったよ。どの子もお前に似ていた……でも、足りなかった。興味が湧かなくて、自然解消したよ………………聞いてるか、千尋」
技巧など関係ない、本能で私を抱いている。
「お前が欲しいんだ。本気で、俺は」
激しく、情熱的に。
それから、この人は気付いていないけれど、独りよがりな――
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