1/1
前へ
/15ページ
次へ

 後ろから私を包み込み、隼人は満足している。  思いを遂げた。彼は完成させたのだ。彼の、理想通りに。 「かくれんぼで鬼になると、いつも千尋を一番に探して、すぐに見つけたっけ」 「うん」  ――千尋ちゃん、みーつけた!  嬉しそうな隼人の笑顔。今も忘れない。 「どこに隠れるか、分かったんだ。お前はいつも、俺と同じことを考えてた」 「……」 「中学に入ってからは、それが分からなくなった」  ぎゅっと、力いっぱい抱きしめてくる。懐かしい、これは隼人の匂い。 「だけど今、理解できたと思う。やっぱり、お前は俺と同じなんだなって」  恥ずかしくて、素肌が熱くなる。誤魔化しはきかないだろう、何を言っても。 「俺を好きだってこと。ただ純粋に好きで、欲しいと思ってた。そうだろ?」  そのとおりだ。こんなにも隼人を求めているなんて、自分自身驚いてしまう。そして、それすなわち隼人の足りないものであったと、身体が理解している。  隼人は私を自分のほうに向かせて、にっこりと笑った。  すっきりとした、なんの憂いもない、明るい笑顔。 「早くこうすれば良かったんだ」  二人でシャワーを浴びて、もう一度抱き合った。  隼人は自信を持って、思うようにした。私とは違う道を歩んできた人間なのだと、人肌の気持ちよさに溺れながらも感じている。  金甌無欠――  知らなかった四字熟語。始まったばかりなのに、私は終わりを悟っていたのか。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加