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「それじゃ、あとはよろしく」
「了解。ありがとうな、竹内」
はっと我に返ると、竹内君は席を外し、その椅子に隼人が移動していた。
(えっ、何で。どうして?)
すがるように竹内君を目で追う私を、彼が覗き込んだ。何年ぶりかで間近に見る幼馴染みの顔に、私は飛び上がるほど驚く。
「この後、少し付き合ってほしい」
私の知らない、大人の隼人がそこにいた。
懐かしい話題で盛り上がる同窓生の後ろを抜ける時、竹内君が目で合図するのが分かった。あとはよろしくと、彼は言っていた。
隼人、千尋をよろしく――
了解。ありがとうな、竹内――
そういうことだろうか。
店を出た途端、隼人は私の肩を抱いた。
小雪舞う中、彼の腕は温かく頼もしく、すぐに拾ったタクシーの中でも、彼は私を包んでいる。
何年ぶりかの交流。いや、突然の密な接触に、私は驚くばかりで反応できない。
街灯りに照らし出される彼の横顔を、そっと見つめた。
後ろに梳かした前髪と、きれいな鼻梁。顎から首、肩にかけて逞しいシルエットは、私の知らない大人の男性である。
だけど、視線に気が付き笑った顔は、かくれんぼで私を見つけて嬉しそうにする、あの隼人だった。
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