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 バーを出た後、ホテルの客室へと誘われた。  エレベーターを降りて、ドアが並ぶ廊下を行く合間も、隼人は私を抱えるようにして歩いた。逃げられないよう、押さえている――そんな必死さが、彼の腕から伝わってきた。 (どうして?)  今夜再会するまで、なにもなかった二人なのに。  そんなそぶりすらも見せなかったあなたなのに、どうして誘うの。何を考えているの?  部屋に入り、焦ったように服を脱がす彼のぎこちない手つきに逆らいもせず、心で訊く。だけど、自分自身にも訊いていた。  バーで私は、甘いカクテルをすすめられるままに飲み、酔うと分かっているのに、蕩けるような美味しさに溺れた。  女を酔わせて、口説く。  そんな人に抱かれるというの?  こんな行為は、恋人と呼べる人とすべきなのに、それでいいの?  私をベッドに横たわらせて、隼人が語る。  幼い頃からこれまで、さしたる努力もせずトップを走ってきたわけじゃない。俺なりに工夫して、頑張って、優秀な兄二人に負けないよう自分を作ってきたのだ、と。 「金甌無欠(きんおうむけつ)って、知ってるか」 「きん……おう?」 「金甌無欠。完全なこと。傷ひとつない金の(かめ)という意味の言葉だ」 「傷ひとつない……」 「そう。もう少しで、完成するんだ」 (よく、わからない……)  急に酔いが回ってきた。  すぐにも眠りに落ちそうなまどろみの中、恋人ではないけれど、ずっと前から好きで、今でもその気持ちが消えていない相手の顔を見守る。  かわいかった男の子は、男らしく逞しい青年に成長したのだ。どこにも翳りがないのは変わらない。  まさに、金の輝き。
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