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裂けた肉の間に土塊が潜り込み、じくじく膿んで蛆が湧こうと彼が朽ちることは許されない。
傷が乾き癒えるまで、肉を食い破られる激痛と不快感に意識を手放しては目覚める――その繰り返しだ。
そうして、幾度目の目覚めか。
蝿を嬉々として集らせていた、腐敗した体液の匂いがしなくなった。鼻が麻痺したのかと思ったツェヴェルだが、どうやらそうではないことは空気が動くたびに薫る香りが教えてくれた。
「――生きていますか」
微かに誰かの声がした刹那、腐った皮膚が崩れ落ち、痛みは稲妻となって脊髄を突き抜けた。
手放した意識の向こうで、ほのかにマシブの木肌の香りがする。マシブはエニスの後宮の建材に使われていて、妃たちの衣や髪には香では隠しきれない清涼な緑の香りが移っていた。
かつてそれは男にとって、母の温もりとともに蘇る懐かしい香りであった。
今はどうしたことか、女たちの涙と血の匂いがともに揺蕩っている。
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