首狩り

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首狩り

 そこで死ぬことができたなら、男は「首狩り」になどなっていなかった――。  かつて彼を育んだエニスの地は、異教の民に悉くを奪われ名を失った。  エニス最後の王は、弟のツェヴェルに一つの願いを託すと、自ら戦場へ立ち奮闘した。民を最後まで守り抜く勇姿を見せつけ、もはやここまでと悟るや潔く首を斬らせた。  宙を舞う兄王の首が不敵に笑い、ツェヴェルに語りかける。 ――これよりその身は、我が願いによって守られる。悲願を遂げるまで、死ぬることの許されぬ体……大いに生かしてエニスの誇りを取り戻すのだ。  エニスの民は赤子に至るまで粛清されたが、美姫揃いと国の内外までその名を轟かせた後宮の妃が七人、戦利品として連れ去られていた。  兄王は異教の民にエニスの地は奪わせても、その誇り高き血まで穢されることは許さなかった。  異教徒と血を交えぬよう、妃たちの首を狩り集めよと、ツェヴェルに願いを……いや、呪いをかけたのだった。
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