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それから月日が流れ翔太は成長し、やがて結婚して家庭を持つことになった。彼の妻、絵理は優しくて思いやりのある女性で、二人の間には一人の息子が生まれた。息子の名前は健太。翔太は自分の家族を大切にしながら、母親の由美の教えを胸に日々を過ごしていた。ある日、翔太は仕事から帰宅すると、リビングで絵理と健太が楽しそうに遊んでいるのを見つけた。
「ただいま。」
翔太は微笑みながら言った。
「おかえりなさい、翔太さん。今日はどうだった?」
絵理が優しく尋ねた。
「普通だったよ。でも、家に帰ってくるとホッとするね。」
翔太はリビングに入って、健太を抱き上げた。
「パパ、おかえり!」
健太は嬉しそうに叫んだ。
「ただいま、健太。今日は何して遊んでたの?」
翔太は息子の顔を見ながら尋ねた。
「ママと一緒にブロックでお城を作ったんだよ!」
健太は誇らしげに答えた。
「それはすごいね。パパも一緒に見せてもらおうかな。」
翔太は健太を抱きしめながら言った。
夕食の時間になると、家族三人でテーブルを囲んだ。絵理が作った料理が並び、温かい雰囲気が漂っていた。
「今日は何を作ったの?」
翔太が興味津々に尋ねた。
「今日はあなたの好きなカレーよ。健太も手伝ってくれたの。」
絵理は微笑みながら答えた。
「パパ、僕もお手伝いしたんだよ!」
健太は嬉しそうに言った。
「それは楽しみだな。ありがとう、健太。」
翔太は感謝の気持ちを込めて言った。
夕食を終えた後、翔太は健太を寝かしつけるためにベッドルームに向かった。健太はベッドに入り、翔太が絵本を読み聞かせるのを楽しみにしていた。
「パパ、今日もお話してくれる?」
健太が目を輝かせながら尋ねた。
「もちろんだよ。今日はどんなお話がいいかな?」
翔太は絵本を手に取りながら答えた。
「お城のお話がいい!」
健太は元気よく答えた。
翔太は絵本を開き、健太にお城の冒険の物語を読み聞かせた。健太は翔太の声を聞きながら、次第に目を閉じて眠りに落ちていった。その夜、翔太はリビングで絵理と一緒に過ごしながら、母親の由美のことを思い出していた。
「翔太さん、何か考え事?」
絵理が尋ねた。
「うん、母さんのことを思い出してたんだ。母さんも僕にたくさんの愛情を注いでくれたから、僕も健太に同じように接したいと思って。」
翔太は静かに答えた。
「由美さんは素晴らしいお母さんだったんだね。翔太さんも素晴らしいお父さんだよ。」
絵理は優しく言った。
「ありがとう、絵理。僕たちも一緒に頑張ろうね。」
翔太は絵理の手を握りしめながら言った。
翔太の父、健一は五年前に病気で亡くなった。毎年お盆になると、翔太は家族と一緒に健一の墓参りに行くことを欠かさなかった。今年もその時期がやってきた。
お盆の朝、翔太は妻の絵理と息子の健太と一緒に墓地に向かった。墓地に到着すると、翔太は父親の健一と母親の由美の墓前に立ち、静かに手を合わせた。
(お父さん、お母さん、今年もお盆が来ました。健太も一緒に来ましたよ。)
翔太は心の中でつぶやいた。
絵理と健太も手を合わせ、健一と由美に祈りを捧げた。健太はまだ小さいが、毎年のこの行事を大切にしている。
「パパ、お墓に何を話してるの?」
健太が小さな声で尋ねた。
「僕たちが元気に過ごしていることを伝えているんだよ。」
翔太は優しく答えた。
「おじいちゃん、おばあちゃん、僕も元気だよ。パパとママと一緒に楽しく過ごしてるよ。」
健太は無邪気に話しかけた。
翔太は健太の言葉に微笑みながら、父親の健一と母親の由美との思い出が次々と蘇ってきた。健一は厳しくも優しい父親で、由美は愛情深い母親だった。
(お父さん、お母さん、僕も父親になって、あなたたちが教えてくれたことを健太に伝えていきます。どうか見守っていてください。)
翔太は心の中で誓った。
その後、家族は墓前に花を供え、線香を焚いた。絵理が静かに言った。
「翔太さん、お父さんもお母さんもきっと喜んでいるわ。あなたが立派に成長して、素敵な家族を持っていることを。」
「ありがとう、絵理。お父さんもお母さんも、僕たちを見守ってくれていると思う。」
翔太は感謝の気持ちを込めて答えた。
「おじいちゃん、おばあちゃん、また来るね!」
墓参りを終えた後、翔太はふと風に乗って聞こえるような声に耳を澄ませた。どこかで母親の由美が「おかえり」と言っているような気がした。
「ただいま。」
翔太は目を閉じて、その声に応えるように静かに言った。
その瞬間、翔太の心には温かい感情が広がり、母親の愛情が再び感じられた。彼は家族と共に帰路につきながら、これからも前を向いて歩いていくことを誓った。
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