ダイブ2〜君と運命の一冊〜

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 一度読んだ小説の世界に飛び込むことができるこの能力を俺は「ダイブ」と呼んでいる。  小六の時、ひょんなきっかけでダイブに目覚めた俺は、それ以来、いろんな物語の中を冒険することが日課となっている。  今までに行った世界でいうと、例えば、火の鳥が舞い踊る常夜の世界とか、氷の大地に覆われた未知の惑星とか。あとはしっとりとした夏の夜の匂い香る夏祭りにも行ったし、勇者がお姫様を救うファンタジー世界を旅したこともある。  他にもまだまだあるが、とにかく、俺はダイブのおかげでたくさんの得難い経験をしてきた。  だけどそんな万能に思えるダイブにも、いくつかルールがある。  一つ、制限時間があること。一つ、一日一回しか使えないこと。  大きなところはこの二つで、あとは、一度読み切った小説じゃないとダイブできないこと(ただし連載中の場合は最新のところまででよい)や、こちらからストーリーに干渉はできないこと。  他にも、ダイブできる小説世界は俺が作品を読んで勝手に想像した二次的なものではなく、作者本人が想像した世界であること。  つまり作者の想像の練度が優れているほど世界の解像度は高く、逆に練り込みが甘いとあちこちにモヤのようなものがかかってよく見えなかったりする。  そんなわけで、解像度の高い世界を体感するためにはどの小説の中にダイブするかが重要であり、俺も毎日頭を悩ませているわけなのだが、最近は「ちぃ」というアマチュア作家の作品にお熱である。  ちぃの作品はどれも解像度が高く、いつも俺を満足させてくれる。今回のこの学園日常モノもモヤのかかっている場所など一つもなく、まるで現実世界そのものだ。  そして何より、ヒロインたちが可愛い。  さっきから教室の中を見回しているが、言うなれば主演級の女優ばかり集めた学園ドラマのような華やかさである。くそぅ、彼女たちに言い寄られるこの小説の主人公が羨ましい…… 「皆! おはよーくしゃーてりあ!」  なんて、噂をすれば主人公様のお出ましだ。現実離れした真っ青な髪と、それより少し薄いスカイブルーの瞳。ついでにやたら高過ぎるテンション。見間違えようもない。  だけど俺の目はその目立つ容姿ではなく、主人公の後ろを着いて教室に入ってきた一人の女子に完全に奪われていた。
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