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先生の号令で教室の前ドアが開く。
そして入ってきた、栗色をしたくるくるの癖っ毛で、少し吊り上がった猫目で、主張が控えめな鼻とアヒル口の……
「楓さん!?」
思わず叫んでしまった。教室がシーンと静まり返る。
楓の見た目をした少女は、「は? 誰それ」と不機嫌そうに目を逸らした。
先生は俺を無視して黒板に名前を書き始めた。
「逢坂愛香さんだ。山田くんの従姉妹らしいから、皆仲良くしてやってくれ」
千聖の従姉妹!? ということは、まさか……
俺は思い出す。千聖には、身近な人を小説の登場人物のモデルにする悪癖があったことを。
「よろしく」
逢坂さんは気怠そうに言った後、俺の隣の席まで歩いてきてすとんと静かに腰を下ろした。
おそるおそる隣を見ると、涼しげな猫目と視線がぶつかる。彼女は鬱陶しそうに、言った。
「で、カエデって誰?」
俺の心臓はいつかと同じように歓喜の音を立てる。どくん、どくん。
ヒロイン不在の青春は唐突に終わりを告げた。そして今、第二章の幕が上がる。
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